社会

基地周辺の地下水に有害物質 市民団体が血液検査開始 東京・多摩

 東京の多摩地域の地下水から有害な有機フッ素化合物(PFOS(ピーフォス)など)が検出され、周辺住民の体に蓄積されていないかを調べようと、市民団体が23日、希望者を対象に無料の血液検査を始めた。同化合物は横田基地(福生市など)をはじめ、沖縄などの米軍基地周辺で検出が相次いでいる。 団体は、約20自治体の住民や医師らで構成する「多摩地域の有機フッ素化合物汚染を明らかにする会」。23日は国分寺市の医院で29人が血液検査を受けた。12月3日にも同市内で60人を検査する予定。団体は検査会場を多摩地域で拡大し、来年3月末までに600人規模をめざすという。 ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)といった有機フッ素化合物は燃料火災に効果が高い泡消火剤などに使われてきた。人の体内から排出されにくく、発がん性や胎児の体重減少などが疑われている。 多摩では地下水が上水道に利用される。都が2019年に立川市などの井戸を調べ、後に国が定めた暫定目標値を大幅に超える濃度のPFOSなどを検出した。調査のきっかけは18年に報じられた横田基地からの泡消火剤の漏出だった。 泡消火剤は、神奈川県の米軍…この記事は有料記事です。残り323文字有料会員になると続きをお読みいただけます。Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

「ドン横」に居場所みつけた16歳 メイクをまねた記者に見せた笑顔

 家庭や学校に居場所のない少年少女のたまり場が、各地にある。東京・歌舞伎町の新宿東宝ビル横は「トー横」、大阪・ミナミのグリコの看板下は「グリ下」。名古屋・栄はドン・キホーテ栄本店の横に「ドン横」という一角がある。そこに集まる子どもたちはドン横キッズと呼ばれる。必ずしも非行少年ではないが、知識や経験の乏しさもあって犯罪に巻き込まれやすい「もろさ」を抱える。 10月の平日午後8時ごろ、栄駅近くの「オアシス21」。バスや電車で家路を急ぐ人々がいるなか、広場の隅に少女3人が座っていた。年齢は16歳。「うちらはドン横(キッズ)と違う」と口をそろえた。 1人が身の上を話してくれた。前週に家出してオアシス21付近にたまるようになった。通っている高校は生活指導が厳しい。「もうやりませんって誓約書みたいなのを書かされた。それでも言うこと聞かなかったから居づらくなった」警察や行政に向けたまなざし 家庭について聞くと、「厳しいんだよね」と漏らし、「お母さんは怒る頻度は多いけど手を出してくるのは時々。お父さんは怒る度に殴ってくる」と打ち明けた。そして、スマートフォンの写真を示してきた。「この前は扇風機も投げられた」。左のこめかみや手の甲に内出血ができた跡が写っていた。いまは、同い年か2歳ぐらい上の男性宅を転々としているという。 この夏、警察や行政が中区役所内に悩みを相談できるフリースペースを設けた話題を振ると、「知らない。ああいうところ信用してない」「誰も信用してないよ。大人みんな信用してない」。「ドン横」といわれた場所は、再開発のために封鎖されました。それでも少女たちが栄に集まっていると聞きました。7月、その理由が知りたくて周辺を巡りました。 「ドン横」といわれた広場は6月に再開発のため閉鎖された。《キッズがたまるならオアシスでは》と取材で聞いて、7月にもオアシス21周辺を巡った。 平日の午後7時半ごろ、スマホで自撮りする少女2人がいた。同じ16歳だったが、格好は全く違う。上下黒を基調として、濃いめのアイメイク。2人は「地雷系」と自称した。 ひとりは隣県から来たという。「地元は地雷系が全然いない。私が歩いてるとジロジロ見られる」。装いが溶け込めると感じるのも心地良い理由のひとつだ。 もうひとりは県内在住だという。「ドン横歩いてたらみんなに会えるのがうれしい」。隣の少女とはSNSで知り合った。週3~4日は飲食店でバイトしているが、「彼氏がいなかったら(パパ活や援助交際を)してると思う。そっちの方が稼げるし……」。 両親は早くに離婚した。母親とケンカした時に、「あんたなんか産まなきゃ良かった」と言われた。「家に帰りたくない。月のやつ(月経)がきついけど、バイト休んでると親に行けよって言われる。わかってくれない」。実家にはずっと居づらさを感じる。 午後10時ごろ、スマホに母親から着電があった。別れ際、独り言のようにつぶやいた。「大人たちが変わって、うちらみたいな思いをする人が少なくなれば良いのにと思う」■少女たちに近付いた「ドン横…Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

「現れて、抱きしめて」 自死した父、法廷に立った16歳の娘の願い

 2007年に新潟市水道局の男性職員(当時38)が自殺したのは上司のパワハラが原因だったとして、遺族が市に約7900万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が24日、新潟地裁(島村典男裁判長)で言い渡される。男性の自殺はパワハラによる公務災害に認定される一方、市はパワハラの存在を否定し、全面的に争っている。提訴から7年余り。遺族は同様のことが二度と繰り返されぬ世の中になるよう願っている。上司の言動「著しく理不尽ないじめ」、公務災害と認定 遺族側によると、上司によるパワハラは06年夏ごろ始まり、年明け前後には激しくなった。07年3月、男性がそれまで経験のなかった市発注工事の単価表作成などの担当になると、一定の専門知識が必要な業務なのに助言や指導をしないまま、仕事が進んでいないことを同僚の前で罵倒したり不要な作業をさせたりしたという。 この頃、男性は食事が取れない、眠れないなどの精神疾患を発症。「自分なんていない方がいい」などとこぼすようになり、同年5月に自ら命を絶った。携帯電話や自宅のパソコンには、「いわゆるいじめ」「日を増すごとに悪化してこれ以上耐えられない」「どんなにがんばろうと思っていてもいじめが続く以上生きていけない」などとするメモが残されていた。 地方公務員災害補償基金新潟市支部審査会は11年11月、遺族の訴えを認め、上司の言動は「著しく理不尽な『ひどいいじめ』だった」と判断。精神疾患の発症と自殺につながったとして公務災害と認定した。訴訟で新潟市はパワハラを否定 翌12年2月、市は賠償と関係者の処分を行う考えを遺族に伝え、公務災害の審査に使われた同僚の陳述書の提出などについて協力を要請。陳述者の不利益な取り扱いをしないなどの条件付きで遺族が渡したところ、内部での聞き取り調査の結果としてパワハラはなかったとそれまでの姿勢を一転させたという。 これを受け、遺族側は15年9月に提訴。パワハラによる自殺に加え、聞き取り調査で圧力をかけてパワハラの隠蔽(いんぺい)を図ったと主張している。 これに対し市側は、管理職による聞き取り調査で確認できなかったとしてパワハラを否定。上司も証人尋問で、「自分に至らない点があったとは思っていない」と述べた。 さらに市側は、男性の経歴などに照らして業務は特別に困難な内容ではなく、上司や同僚がフォローする態勢も整っていたと反論。安全配慮義務違反はないとしている。悩みのある人の相談先◆新潟県こころの相談ナビダイヤル(0570・783・025)。24時間受け付け◆新潟いのちの電話(新潟=025・288・4343、上越=025・522・4343、長岡=0258・39・4343、新発田=0254・20・4343、村上=0254・53・4343)。24時間受け付け◆こころといのちのホットライン(025・248・1010)。平日午後5~10時、土・日・祝日午前10時~午後4時男性が亡くなって15年。長女は16歳になりました。周囲には「がんで死んだ」と話し、真相を知ったのは小6のとき。「お父さんに会いたい」。苦しい胸中を明かしました。父と撮れない記念写真、悔しくて寂しかった 一家4人の家族写真で笑みを浮かべる父。優しそうで、少しりりしい。亡くなってから15年が経った。 長女(16)に父の記憶はな…Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

生きるため結婚…つないだ命 戦後の日中を生きた祖母、語り継ぐ3世

 77年前の敗戦前後の混乱のなかで中国に取り残され、生きるため現地で結婚した日本人女性たち。そんな残留婦人のことを多くの人に知ってもらおうと、戦後生まれの3世が、祖母の残した手記や手紙をもとにその半生をたどり、語り伝えている。 巻口清美さん(56)の祖母シズさんは1912年、新潟県柏崎市の貧しい家庭に生まれた。12歳の頃から繊維工場で働き、21歳で結婚。和装小物の卸販売をしていた夫、3男2女とともに42年、満蒙開拓団として中国東北部(旧満州)に渡った。慣れない農村暮らしでまもなく三男を亡くしたが、新たに2人の男の子をもうけた。 敗戦間近の45年8月6日に夫が応召し、同9日には旧ソ連軍が参戦。開拓団からの避難命令を受け、日本の敗戦も知らぬまま、6人の子を連れてほかの団員と逃げた。 避難所で下の2人の子が亡くなった。飢えや寒さのなか、5~10歳の子4人を抱え、生きるために、貧しい季節労働者だった中国人男性と結婚した。恩人の夫と子2人を捨てては帰れない 53年、日本への集団引き揚げがあった。18歳になっていた長男が「みんなで日本に帰ろう」と訴えたが、中国人の夫との間にすでに2人の子がいたシズさんは中国に残ることを決める。 《私の心はくるいそうです…この記事は有料記事です。残り1248文字有料会員になると続きをお読みいただけます。Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

小中学校の給食の無償化、都市部で相次ぐ 期間限定の例も…課題は?

 公立の小中学校で、給食費を完全無償化する動きが全国各地で相次いでいる。これまでは比較的規模の小さな自治体が目立ったが、人口が多い市区にも広がっているのが特徴といえそうだ。物価の高騰などが背景にある。しかし、課題も少なくない。 約35万人が暮らす大阪府高槻市。今年4月から、市立中学校の給食を完全に無償化した。中学生になると、部活動や習いごとなど家庭の負担が増えることから、子育て支援として給食の無償化が「一番効果的」と判断したという。 時限措置は設けていない。対象は全18校の計8600人ほどで、市は年間4億5千万円の費用を全額負担する。 円安などに伴う物価の高騰を受け、9月からはさらに市立小学校でも無償化を始めた。全41校、約1万7千人の児童が対象だ。 市内で2人の小学生を育てる女性(31)は「子どもたちは毎日おかわりするくらい給食が大好きなので、とてもありがたい」と話す。 文部科学省が2017年に実施した調査によると、当時の全国1740市町村のうち、小中学校ともに無償化を実施していたのは76市町村。7割超が人口1万人未満、9割超が町や村だった。 文科省はその後、同様の調査を実施していない。そこで、今年9~10月、朝日新聞が47都道府県の教育委員会や学校給食会などに取材したところ、小中学校ともに無償化している市町村が、少なくとも200以上あることが確認できた。 文科省の担当者も、「断言はできないが、給食を無償化する自治体は増えていると感じる」とする。 17年調査とは異なり、人口…Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

救済新法提言から1カ月 検討会座長、政府案は「40点」 改善点は

 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を踏まえ、悪質な寄付の被害回復と防止を図る被害者救済新法の政府案が明らかになった。政府が18日に示した概要では、法人や団体が個人に寄付の勧誘をする際、禁止行為によってなされた寄付は取り消すことができるとし、子どもや配偶者にも一部取り消し権を認める内容になっている。 これまでほとんど規制がなかった寄付について法整備するよう提言をまとめ、政府に対応を迫った消費者庁の有識者検討会のメンバーはどう評価するのか。座長を務めた河上正二・東大名誉教授は「勧誘行為の悪質性を考えれば、『取り消し』で対応するのではなく、最初から『無効』とした方がいいのではないか」と疑問を投げかける。どういうことなのか。 ――検討会の報告書が公表されて約1カ月後、新法の概要が明らかになりました。どう見ますか。 「時間的な制約があって、内容は必要最小限にとどまっている印象です。旧統一教会の問題を受けて作った新法ですが、対象の範囲は『法人』と広く、逆に規制の要件はゆるい。その意味では、信教の自由に対する配慮がとても強いと思います」 ――点数をつけるとしたら? 「40点くらいだと思います。本人の財産権に対して周りの人間にも一定程度介入を認めたことは評価できます。本来は許されない仕組みを、民法の規定やその特例を使って説明しようと試みました」 「それから、禁止行為として、借金をしてまで、居宅を売ってまで寄付をさせてはダメという規定を設けて、一応上限をかぶせました。しかし、山林や田畑は対象外でした」 ――足りない60点分は何ですか? 「まず一つは、禁止行為とし…Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

ウルトラマンを治療した4歳 親の願いに本物のAが動いた

【A Scene】傷だらけのウルトラマン~息子が「連れて帰る」と言ったわけ~=諫山卓弥、西田堅一撮影 「優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人たちとも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえその気持ちが何百回裏切られようと。それが私の最後の願いだ」 ドキュメンタリー動画「A Scene 傷だらけのウルトラマン」には「本物のウルトラマン」の声が登場する。 声の主は高峰圭二さん(76)。1972年に放送されたウルトラマンA(エース)に変身するTACの北斗星司役だった。 岩手県のウルトラマン好きの親子を描くドキュメンタリーが、本物のA(エース)にたどり着くまで。親子の物語を動画に 岩手県の自然豊かな町で暮らすしろつさん(45)。家族3人、いつもその中心にいるのは、4歳の息子、はるたくんだ。 家族で立ち寄ったリサイクルショップでの出来事をまとめた記事「くたびれた200円のウルトラマン 息子が「連れて帰る」と言った訳」が配信されたのは4月だった。 家族で立ち寄ったリサイクルショップ。はるたくんが、ソフトビニール製で表面の塗装がはがれた「ボロボロ」の姿を見て、「連れて帰りたい」と言い出した。 ボロボロなのに連れて帰る理由は「だって、このウルトラマンはたくさん戦って、みんなを守ってケガだらけなんだよ。かわいそうだから連れて帰る」。 ばんそうこうを貼られたウルトラマン人形と一緒に寝るはるたくんの写真はSNSで大きな反響を呼んだ。 記事を映像化しよう。そう考えたのは、6月のことだ。執筆した若松真平記者を通じて、しろつさんにメールを送った。親子で大好きなウルトラマン 子どもの頃からウルトラマンが大好きなしろつさん。リサイクルショップでの出来事もあり、はるたくんの姿を見て思い浮かべたのがウルトラマンAの最終話に出てくる、冒頭の言葉だ。脚本は市川森一さん(2011年死去)によるもの。 地球の子どもたちにいじめられていた宇宙人を救った北斗星司隊員。しかし、それは宿敵の残党で、みんなを救うために、Aは正体を明かして地球を去るというエピソードだ。そこで、最後にAが残したのが、この言葉だった。 「優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人たちとも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえその気持ちが何百回裏切られようと。それが私の最後の願いだ」本物のウルトラマンAにお願い 取材撮影は8月の下旬だった。自宅でのインタビュー、いつも行く公園、花火大会。撮影を終え、編集も終盤にさしかかったときの同僚との何げないやりとりがきっかけとなった。 「このウルトラマンAの名言、渋い男性の声でナレーションとった方がいいよな」 「たしかに…」 「これ本物のA(エース)に読んでもらったら、しろつさんも喜ぶかも」 「今年は放送50周年です」 ひょっとして…。調べると、高峰圭二さんは、いまも活動を続けていることがわかった。 ツイッターのアカウントも見つけた。プロフィルには「時々ウルトラだけ役者?」と書かれている。ただ、連絡先がわからなかった。 その後、ネットを通じて関係者の1人にたどり着き、なんとか連絡先を入手。ダメを承知で連絡してみると、「そんなうれしい仕事なら喜んでやります」と快諾してくれた。高峰さん自身もこの言葉に特別な思い入れがあったといい、しろつさんの子どもへの願いと、高峰さんの思いが重なった瞬間だった。 しばらくすると、いつの間にか、高峰さんとしろつさんが「つながった」。 「仕事が手につきません」「今年一番うれしい日」と喜ぶしろつさん。 高峰さんが「今年も後二月!先月はA新聞社が岩手県のウルトラファンのお父さんのSNS?の投稿、傷ついたウルトラソフビが話題になり…(中略)」とつぶやくと、しろつさんも「はるたとワクワクしながら待ちます」とツイートした。すでに2人が公開の場でやりとりしていた。 高峰さんは言う。「はるたくんが、傷だらけのウルトラマンをあえて選ぶことも、ばんそうこうを貼ることも、大人では考えつかない発想で、非常に子どもらしくかわいいなと思った。また、部屋のシーンが映った時に、しろつさんのウルトラマン愛がすごいと思った(笑)。引き受けて良かったです」。 このほかにも「思い」の輪は広がった。 当時のTACの仲間たち、脚本の市川さんの妻に、高峰さんが連絡したところ、しろつさんとはるた君のエピソードに共感し、今回高峰さんがせりふを読むことを喜んでいたという。あの言葉への思い 高峰さんにとっても、あの言葉には強い思い入れがあった。 実は本編では高峰さん自身では読んでいないという。北斗とエースで声を分けていたためだ。 「『最終回で北斗がエースだともうわかった後なんだから僕に読ましてください』と直談判したがダメだった。それでずっと心に残っていた」。 それでもエース(北斗)としてせりふに向き合ってきた。 「災害などがあった時、人々に優しさが必要になったときに不思議と思い出し、災害に遭った方々を勇気づけることがあると、聞く」という。 「ロシアとウクライナが戦争をしている今のような状況では余計に響いてくる言葉だと思う。少し難しい内容を子どもにも分かるせりふにした市川さんも本当にすごい」。言葉を変更 ナレーションの収録日。高峰さんは優しい穏やかな表情でスタジオに現れた。ただ、マイクを前にすると、その目はきりっとした北斗隊員になっていた。 実は、ドキュメンタリー「傷だらけのウルトラマン」では、本編から1カ所言葉を変えて収録している。 それはAの言葉が「最後の願…Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

くたびれたウルトラマン、連れて帰った息子 Aの願いと重なった

【A Scene】傷だらけのウルトラマン~息子が「連れて帰る」と言ったわけ~=諫山卓弥、西田堅一撮影 岩手県の自然豊かな町で暮らすしろつさん(45)。家族3人、いつもその中心にいるのは、4歳の息子、はるたくんだ。 しろつさんには忘れられないある出来事がある。 家族で買い物をしたあと、ふらりと立ち寄ったリサイクルショップでのこと。ふと、はるたくんが、ほかの人形とともにつり下げてあった一つのウルトラマン人形を見つめ、「連れて帰りたい」と言った。税込み200円のシールが貼られたソフトビニール製のその人形は、あちこちの塗装がはげていた。 しろつさんが「ボロボロだけどいいの?」と尋ねると、予想外の答えが返ってきた。 「たくさん戦って、みんなを守ってケガだらけなんだよ。かわいそうだから連れて帰る」 家に連れて帰ると、はるたくんはいたわるようにウルトラマンの体をなで、ばんそうこうを貼った。 しろつさんが撮影した、手当てをしたウルトラマンと一緒に寝ている姿はツイッターで多くの反響が寄せられた。 しろつさんが頭に浮かべるのは、ウルトラマンA(エース)の最終話での名言だ。 「優しさを失わないでくれ。弱い者をいたわり、互いに助け合い、どこの国の人たちとも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ。たとえその気持ちが何百回裏切られようと。それが私の最後の願いだ」 息子のはるたくんにも、ただただ、優しさを忘れずに、すくすくと育って欲しいと願っている。     ◇ エースに変身するTACの北斗星司役だった高峰圭二さん(76)。高峰さんもこのエースの言葉には思い入れがある。 最終話の脚本を書いたのは市川森一さん(2011年死去)。地球の子どもたちにいじめられていた宇宙人を救った北斗隊員。しかし、それは宿敵の残党で、みんなを救うために、北斗隊員は正体を明かしてエースに変身し、地球を去るというエピソードだ。最後にエースが残したのが、あの言葉だった。 高峰さんは「災害などで、人々に優しさが必要になったとき、今なら、ロシアとウクライナが戦争をしているような状況では余計に響いてくる言葉。内容は少し難しいけど、それを子どもにも分かるせりふにした市川さんは本当にすごい」と話す。はるたくんについて、「傷だらけのウルトラマンをあえて選ぶことも、ばんそうこうを貼ることも、大人では考えつかない発想で、非常に子どもらしく、かわいい」と話す。Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

相次ぐ学校給食の無償化、でも……「保護者負担が原則」にみえる問題

 コロナ禍や物価高騰などを受けて、学校の給食を無償化する自治体が相次いでいます。しかし、財源の確保に悩む自治体もあるようです。子どもの給食費は、誰が負担するべきなのでしょうか。学校にまつわる保護者の負担について研究している千葉工業大の福嶋尚子准教授(41)は「1日に1食くらいは、子どもたちにきちんとしたご飯を食べさせるんだと、国が保障してほしい」と語ります。 ――給食の無償化をする自治体が増えています。特に都市部にも広がっているようです。 給食の無償化に注目が集まること自体は画期的です。 ただ、トレンドみたいになっていて、選挙公約で「無償化する」と言っておけば票を入れてもらえるという雰囲気も感じます。本当に「子どもの権利保障としての無償化」を考えているのでしょうか。 地方自治体に丸投げになっているために、今たまたまお金に余裕がある自治体だけが無償化できるという状況も、おかしいです。 本来は、財政的に安定している国が全国一斉に質を担保しつつやらないといけないのではないでしょうか。 自治体が競争させられている構図に、一部の首長や議員がのっかっているのも問題です。子育て支援の「魅力発信競争」になってしまっている。国にとって都合のいい構図に落とし込まれています。 無償化が難しい自治体は連帯して、国に対して「競争ばかりさせてないで国が責任を負ってください」と陳情するような取り組みが求められているのではないでしょうか。 ――自治体の財政状況などによって格差が生じるのはおかしいということですか。 子どもが給食を食べるというのは、基本的人権にひもづく権利だと考えられます。もともと日本国憲法の中で義務教育の無償性がうたわれていますし、生存権や成長発達権に付随する食の権利と深く関係しています。 現状では、その保障状態に格差が生じているのです。このままではいけません。 また、自治体任せにしていたら、今は栄養バランスが良くてデザートまでつくような給食を出せていても、無償化するにあたって1品減らしたり、栄養バランスを悪くしたりすることにもなりかねません。 ――現在、生活保護世帯では給食費の負担がゼロになっていることなどから、国としてはさらなる負担軽減が必要ならば自治体で対応してほしいというスタンスのようです。 少なくとも困窮家庭の子だけは救済しているから大丈夫、というのは間違っています。 選別的に給付をしていくと…Source : 社会 - 朝日新聞デジタル

200円で迎え入れたウルトラマン 半年後に知った4歳児と父と慈愛

【A Scene】傷だらけのウルトラマン~息子が「連れて帰る」と言ったわけ~〈本編は記事後半にあります〉=諫山卓弥、西田堅一撮影 しろつさん(45)を初めて取材したのは3月上旬。 岩手県花巻市在住で、大のウルトラマン好きだ。 聞かせてもらったのは、ひとり息子・はるたくん(4)とのエピソード。 家族でリサイクルショップに立ち寄った際、はるたくんがウルトラマンの人形を見つけたときのことだ。 ソフトビニール製で表面の塗装がはげており、値札には税込み200円と書かれていた。 しろつさんも気づいていたが、何とも思わずスルーしていた。 はるた君に「帰ろうか」と声をかけると、そのウルトラマンを「連れて帰りたい」という。 「ボロボロだけどいいの?」と尋ねたら、こんな答えが返ってきた。 「だって、このウルトラマンはたくさん戦って、みんなを守ってケガだらけなんだよ。かわいそうだから連れて帰る」 自分は見て見ぬふりをして通り過ぎた人形に、そんな思いを抱いていたのか。 うれしくて目の前がにじみ、買って帰ることにした。 自宅に着くと、はるたくんは大事そうにウルトラマンの体をなでていた。 しばらくしたら横に寝かせて、体にばんそうこうを貼って「治療」が始まった。 自分の布団で一緒に眠る姿が可愛かった――。 そんな話を聞かせてもらい、書いた記事だった。半年後に自宅を訪ねて それから約半年が経った8月下旬。しろつさんの自宅を訪ねた。 約束の3時間ほど前に新幹線の最寄り駅に到着し、昼食を食べていた時に、しろつさんからLINEでメッセージが届いた。 「予定通りですか?」 すでに到着していると返すと、返信があった。 「いま車に乗ってるんで拾いに行きますよ。ぜひ一緒に寄ってもらいたい場所があるんです」 向かった先で見せてもらった…Source : 社会 - 朝日新聞デジタル