【科学力】 「世界最高水準の研究大学」を目指し、政府が2011年に設置した沖縄科学技術大学院大学(OIST)が1日、9年目を迎えた。世界から優秀な若手研究者を集め、新しい発想に基づく基礎研究の挑戦を促すために考えられた大学運営の仕組みが特徴だ。今夏、英ネイチャー誌などを出版するシュプリンガー・ネイチャーが発表した、質の高い論文を効率良く生む機関で、日本では最高の9位に入るなど、成果も出てきた。OISTの強みと今後の課題について、運営に携わるロバート・バックマン首席副学長とメアリー・コリンズ研究・学務総括副学長に聞いた。 ――シュプリンガー・ネイチャーによる質の高い論文に関するランキング(世界9位、日本でトップ)をどう分析していますか? コリンズ 昨年度(2018年)、OISTから発表された論文は394本で、このうち(シュプリンガー・ネイチャー社が指定する著名な雑誌に掲載された)質の高い論文は65本。この比率の高さには主に二つの要因があると考えています。一つ目は、若い研究者を信頼し、研究活動を任せていること。例えば30歳の研究者でも独立して研究チームを持つことができます。 二つ目は「ハイトラスト研究費」と呼ぶ研究費の仕組みです。国の研究費は支給期間が2~3年程度と短期間のものが多いのですが、OISTではすべての教員が安定して5年間、資金提供を受けられます。これまでの政府の寛容な予算措置のおかげで、志のある研究が可能になっています。今年、われわれはランキングでベスト10に入った3機関を含む四つの研究機関と協力の提携をしました。イスラエルのワイツマン科学研究所(2位)、オーストリア科学技術研究所(3位)、米ロックフェラー大学(6位)です。いずれも「ハイトラスト」と同様の長期間の安定した研究費を活用しており、それがすぐれた科学研究を支えています。 5年ごとに厳しい研究レビュー ――年間の研究予算はいくらぐらいになるのでしょうか? コリンズ 若手の教員は一つのラボ(研究室)に4人の研究者を抱えています。標準的なケースでは、ラボあたりの年間予算は人件費が4千万円程度、研究室運営も含めた研究費が2千万円程度です。ただし、理論系のラボなどは研究費はもっと少なくてすみます。シニアの教員は研究者8人を抱えており、人件費、研究費ともほぼ倍ぐらいになります。 研究機器は大学全体で共有しており、毎年度新たな機器を導入しています。共同で運用する分、コストを節約できています。 ――自由に研究してもらう一方で、研究の質を維持する仕組みはあるのでしょうか? コリンズ 定期的な厳しいレビュー(審査)を導入しています。研究室を主宰する教授や准教授は5年ごとにレビューを受けることが課せられています。審査は学内だけでなく、海外から招いた著名な科学者に加わってもらっています。 また、質の高い科学研究を進めるには世界から研究者を探さなければならないので、採用活動も重視しています。現在、教員は40カ国以上、学生は45カ国以上から来ており、国際性が豊かです。求人の倍率も高く、今年は約10の教員ポストに約1500人の応募がありました。 幸い、日本は制度上、ビザ取得などの面で科学者が海外から来るのが容易です。トランプ政権のアメリカや、EU離脱に揺れる英国とは異なります。OISTでは日本語を学ぶクラスを提供し、海外からの引っ越しや銀行口座の開設、車の借り出しなどを手伝い、スムーズに生活できるようにサポートしています。 ――研究費もレビューも、日本の他の国立大に比べるとかなり思い切った仕組みですね。 コリンズ OISTは世界でもユニークな大学です。もっと規模が大きく、歴史のある大学では思い切った改革は難しいですが、できたばかりのOISTはすべてを思うようにデザインできるのが魅力です。私自身、英国の非常に古い大学からOISTに来て新鮮な体験をしています。大きな大学では、教員は学部の中に閉じこもりがちですが、ここには分野の垣根がなく、数学から海洋生物学まで、異分野がミックスされています。…
5 ans Il y a