「いいね」のために生きてきた ウソまみれの投稿、手放して得た自由

 1日に19時間接続し、スマホ片手に眠る。

 呼吸をするようにずっとさわっている。

 次々と流れてくるインスタやツイッター、ティックトックの情報に反応していく。

 みんなの話題をチェックできているか。「いいね」をするのが遅れていないか。

 「正直、疲れているんですよね」

 関西に住む高校3年生の女性はつぶやく。

 学年、部活や係、小中学校の友達、趣味、勉強仲間……。

 「一覧」と呼ぶ、40近いSNSアカウントを持つ。

 グループごとに、キャラや言葉遣いを分け、仲間外れにならないよう気を配る。

 ほかにもアイドルの「推し活」、将来のための投資の勉強、友人と互いの位置情報を共有するSNSもやっている。

 情報量に追いつかないし、抜けることもできない。

 「本音を言うと、スマホがない時代に生きたかった」

時間あたりの効率を重視するタイパ(タイムパフォーマンス)社会。「時間に追われている」と感じている人が増えています。1日24時間を何にあてるのか。存在感を増しているのがスマートフォンです。

 千葉県松戸市のエッセイスト、忍足(おしだり)みかんさん(28)も大学生だったとき、スマホを自分の体の一部、心臓のように感じていた。

 遊園地に行っても、食べたアイス、乗った観覧車やメリーゴーラウンド、片っ端からSNSに投稿した。

 「みかんって本当にスマホ依存だよね?」

 友人から指摘されても、やめられなかった。

 「いいね」が少ないとイライラし、投稿はウソにまみれていった。

 カフェでひとりなのに、2人分を頼んで「友達とお茶」。恋人はいないのに、彼氏とのデートを装って自撮りした。

 洋服店の試着室で、買わない服を次々と身につけて投稿をした。

 「万引きと同じだろ」

 「いいね欲しがりのクソ女」

 批判するコメントが殺到して炎上した。

 「何が何でも更新する。まわりの迷惑は考えない。善悪すら危うくなっていました」

運命の十字路 ながらスマホの先に

 ある朝。目が覚めると、首と肩に激痛が走った。

 整骨院で、うつむいた姿勢でスマホを長時間眺め続けることで発症する「スマホ首」だといわれた。

 文字がぼやける。視力も低下し始めていた。

 友人とご飯を食べた帰り道。スマホを操作しながら、十字路にさしかかった。

 キキィー。タイヤが道路に擦れる大きな音がして顔を上げた。

 右側から軽ワゴン車が迫っていた。

 「ああ、死ぬ」…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

Japonologie:
Leave a Comment