北極海に浮かぶ氷原の上を、ブリザードが何日も吹き荒れていた。
テントの中にいても、氷がぶつかりあう音が聞こえてきた。
2012年3月、荻田泰永さん(45)は「無補給単独徒歩による北極点到達」に挑んでいた。
時には零下50度に冷え込む中でソリをひき、氷の上を進む。
だが、視界が真っ白になるほどの強い風雪に襲われ、テントの中で身動きがとれなくなっていた。
寝袋を出て、一冊の文庫本を手にした。紙の柔らかい手触りが、温かく、心地良かった。
文春文庫の「旅をする木」。カバーはなく、黄ばみ、角はとれて丸みを帯びている。
タイトルの「木」には「一」が書き足され、「旅をする本」となっていた。
この本に旅をさせてやってください
表紙の裏に、黒いペンでそう書かれている。
アラスカに根ざして活動した写真家の星野道夫さんが書いた「旅をする木」。その文庫本が旅をする人から人の手に渡り、約17年にわたって世界を巡っています。「最後の旅」の行き先も決まったそうです。「旅をする本」の軌跡を追いました。
著者は、写真家の星野道夫さん(1952~96)。アラスカで旅を続け、風景、生き物、人々の生と死を見つめた33編の文章が収められている。
荻田さんは、何度も繰り返し…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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