「できなくなったこともあるが、やれることもある。それが伝わらない」世界初の“仕事”に従事する認知症患者の心の叫び(FNN.jpプライムオンライン)

「病気になる前は普通にしていたことが、突然ダメといわれても」

「この病気になる前は普通にしていたこと。それがいきなりダメといわれても、エーだよ!」
認知症になり、現在、要介護2の認定を受けている原田公夫さん(仮名・65)は、私の目を見据えて、はっきりと大きな声で訴えた。まるで、「おまえも同じような眼でおれをみているんじゃないか?」と、聞かれているようだった。

【画像】“世界初の仕事”に従事する認知症患者たち

訪ねたのは東京・町田市にある認知症患者のためのデイサービス「DAYS BLG!」。Barriers Life Gatheringの頭文字をとった施設で、「生活のしにくさを、生活のしやすさにみんなで変えていこう!」との思いが込められている。

運営するのは前田隆行代表(43)。大学を卒業後、初めて仕事に就いた病院の老年精神科で衝撃を受けた。当時は患者を痴呆症とよび、閉鎖病棟で身体拘束していたのだ。

「これでは人生終わりだ。しかし病院を変えることが出来ない。ならば・・・」

と、その後のデイサービス施設での勤務の後、彼の考える「本来あるべき介護」を実現させるために独立した。

施設は、閑静な住宅街の一角、2階建て住宅の1階部分を間借りして運営されている。看板が出ていなければ、その戸建て住宅に施設があることを見落としてしまいそうになるくらい、住宅街に溶け込んでいる。私はこの日、認知症患者と過ごすなかで、いかにその“普通”が大事なことなのか、反省も込めて何度も気付かされたのだった。

6年半かけて「世界初」を実現

午前9時すぎから送迎車にのって、続々と利用者が集まる。この日の利用者は男性6人。70代がメインだ。必ず行う朝のミーティングでは、やりたいことを自分で決めてもらう。この日やるべきことは「洗車の仕事」「食材の買い出し」「郵便物を出す」。各々がやりたいことを、その場で発言し決めていく。スタッフが強制することは、絶対にない。

全員がやりたい、と手を上げたのが「洗車」だった。

これは、施設から車で15分ほどの場所にある自動車販売店(ホンダカーズ東京中央 町田東店)の展示車を洗車する仕事で、実はこの仕事こそが、「何かをして対価をもらう、という普通のことができないが、ここではできる」と、利用者が最も気に入っているこの施設の最大の特徴なのだ。

かつて、デイサービスの利用者が、報酬が支払われる“仕事”をサービス利用時間中にすることは禁じられていた。介護保険という公費が支払われるほどの介護を必要とする人に、仕事ができるはずがない。仕事ができるならば、保険を使うのはいかがなものか、という理屈だ。しかし、彼らは訴えた。

「実際の社会でやっていることを、やりたい」

前田代表は、その訴えはもっともだと感じ、厚労省と掛け合うこと約5年、「最低賃金を下回ること」との条件で「仕事」が認められたのだ。そして、さらに1年半かけて、利用者と共に地元の自動車販売店に営業し、ようやく手にすることができたのが洗車の仕事だった。

日本の介護保険と同様の制度がある諸外国などでは、「無償ボランティア」はあるが有償のものはなかった。介護保険利用者がそのサービス利用時間中に仕事をする、というのは世界初の快挙だったのだ。

到着後、彼らは送迎車からササっと降りて、雨の中率先して洗車を始めた。通常6、7台あり、小一時間かかるのだが、この日は雨のため、屋根の下に置かれていた2台のみ。その2台を徹底的に磨き上げる。原田さんは言う。「はじめ、洗車は車を傷つける、と販売店から言われた。でも自分たちだって、病気になる前まで普通にしていたことだよ」

この仕事によって販売店から支払われる報酬を、それぞれの稼働時間で割り、毎月利用者が手にする。金額は施設に通う頻度によって異なるが、だいたい月600円から3000円ほど。

「何に使っているんですか?」との問いに、利用者のひとりは満面の笑顔で、こう答えた。

「あはは。酒にきまってるだろ~!」

みな、とても幸せそうであった。
このほかに、地域新聞のポスティング、野菜の配達・集金などの仕事があるそうだ。


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Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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