「トシくんはモノと違うねん」…学級会から38年、あの男の子はいま

 1985年、ある大阪市立小学校の5年2組にトシくんという知的障害のある男の子がいた。下校時は同級生が交代で自宅まで送り届けていたが、やがて数人の女の子しか送らなくなった――。その問題を話し合った学級会について記事にした記者が今春、48歳になったトシくんに会いに行った。

 担任は当時23歳だった久保敬さん(61)。その後に別の小学校で担任をしたお笑いコンビ「かまいたち」の濱家(はまいえ)隆一さん(39)との物語を「僕の好きな先生」という連載で紹介した元教員だ。

 さて新人時代の久保さんは、トシくんを支えるという学級目標がなし崩しになっていると感じ、学級会を開くことにしたという。

 子どもたちは互いを非難し合い、最後は「当番制でトシ君を送ろう」と決まりかけた。そのとき、ふだんはほとんど発言しない女の子がまっすぐ手を挙げて言った。

 「トシくんはモノと違うねん」

 クラス全体がシーンと静まりかえった。

 毎日トシくんを自宅に送る彼女は「私が一緒に帰るのは、嫌々じゃなくて……」と続けた。

 きれい好きとして知られていたトシくん。下校中によその家の玄関を見て靴の乱れに気づき、中に入って整えたこともあるという。「そういうのが楽しい」と彼女は言った。

 私は2021年3月、大阪市立木川南小学校の校長だった久保さんからこの話を聞いた。久保さんは学級会での女の子の発言と、自身の恥ずかしさが忘れられない。

 「素直な優しい心ですよね。それに比べて僕がみんなに求めた『優しさ』は上から目線で嫌らしい魂胆がみえみえでした」

 この話はすぐ記事にし、今春には5年2組の物語を「僕の好きな先生1985」という連載にした。これにはわずかに間に合わなかったものの、同級生の目撃情報を元にトシくんの現在の住所を知ることができた。

    ◇

 大阪市内の一戸建ての表札に、トシくんの名字があった。チャイムを鳴らすと、玄関から出てきた女性は5歳上の姉だった。やがて、大柄な男性がドアから出てきた。

「久保先生のクラス楽しかったんやな?」

 「久保先生って、あの久保先…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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