「メッセージ性のあるTシャツ、脱いで」 地裁が傍聴人に退去命令

 民事裁判の傍聴に来ていた女性が、原発の運転差し止め訴訟の判決文がプリントされたTシャツを着ていることを理由に、福島地裁の庁舎外に退去させられる出来事が7月にあった。地裁側が「特定の考えや思想をアピールしている」と判断し、退去を求めた。専門家は「過剰反応だ」と地裁の対応に首をかしげる。

 「Tシャツを脱いでください」

 7月26日、原発事故の避難者関連訴訟の開廷前。傍聴のため地裁1階ロビーにいた松本徳子さん(60)が職員に声をかけられた。

 問題視されたのは、黒地のTシャツの背面にプリントされた文言だった。「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である」

 これは、福井地裁が2014年、関西電力大飯原発福井県)3、4号機の運転差し止めを命じた判決の一節(のちに運転差し止め請求を棄却する高裁判決が確定)。他の地裁の裁判傍聴で着たこともあった。

 「メッセージ性があるので脱いで」と求める職員に、松本さんは「下着になってしまうので脱げない。羽織るものは持っていない」と説明。「裏返して着てください」と言われた松本さんが「それなら傍聴しません」と伝えると、庁舎外に出るよう求められた。

 一度は従って外に出た松本さんだったが、他の傍聴人にブラウスを借りて羽織り、結果的にはTシャツを着たまま傍聴できた。

 避難者の代理人を務める柳原敏夫弁護士は「Tシャツのデザインは裁判の秩序を乱すものではない。裁判所側が不愉快に感じたのかもしれないが、今後どんな服装ならダメなのか基準が分からない」と困惑する。

 松本さんはこの日、東京都内の公務員宿舎に未契約のまま住み続けているとして、福島県に部屋の明け渡しを求められている避難者を支援するため傍聴に訪れた。松本さん自身、東日本大震災後、当時小学6年生だった次女(23)の被曝(ひばく)を避けようと、2人で郡山市から川崎市へ避難。応急仮設住宅となる民間借り上げアパートに住んだが、無償提供の終了をきっかけに市内の一軒家に移った。

 Tシャツは、アパートから出る判断を迫られていた時、福島県や神奈川県に家賃補助を設けるよう一緒にかけ合ってくれた支援者がつくったものだ。補助のお陰でしばらく住み続けることができ、新しい家に移る頭金が用意できた。

 その仲間は国や東京電力に原発事故の責任を問う集団訴訟も支援しており、活動の一環でTシャツがつくられた。横浜地裁の集団訴訟で松本さんや支援者が大勢で着て傍聴したことがあり、東京地裁での別の裁判にも着ていったが、注意されたことはなかった。

 松本さんは「大飯原発訴訟の一審判決の文言は、私たち避難者の思いをくんだもので当然の内容。福島地裁の対応はショックだったし、納得がいかない」と話す。

「傍聴のハードル上げることになる」

 福島地裁によると、今回の対応は、全国の裁判所の庁舎管理について定められた「裁判所の庁舎等の管理に関する規程」を根拠にした。12条には、庁舎退去を命じなければいけない対象として、「はちまき、ゼッケン、腕章その他これらに類する物を着用する者」が挙げられており、Tシャツは「これらに類する物」に当たるという。

 Tシャツの文言に気付いた職員が庁舎管理者である地裁所長に判断を仰ぎ、所長が「敷地内で特定の考えや思想をアピールされると庁舎管理に支障が生じる。中立公正に裁判を行う場にふさわしくない」と判断した。

 松本さんによると、憲法9条を守る趣旨のデザインのTシャツを着ていた傍聴人もいたが、とがめられなかった。地裁側は、原発に関わるデザインが理由ではなく、あくまで「特定の考え」が問題だと説明。地裁内でTシャツのデザインに関する基準は特に設けておらず、今後も所長が個別に判断するという。

 関西大の木下智史教授(憲法…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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