「五輪は延期にしませんか!?」 歩き、問いかける

「オリンピックは延期にしませんか!?」。東京の下町で、こんなメッセージを「着て」散歩する男性に出会った。コロナ禍での東京五輪開催の是非が問われる中、ひとり黙々と意思表示を始めた。

 男性は年金生活をおくる台東区在住の74歳。地元浅草の商店街などを午前と午後、一日3時間ほど歩く。大型連休明けから始めた。コロナ禍の感染防止を考え一人で歩く。声は発さない。

拡大する声を発することなく黙々と散歩する男性。できる範囲内で、感染対策もしてひとりで続けられる方法を考えたという=2021年5月13日、東京都台東区、福留庸友撮影

 緊急事態宣言中の浅草。人通りは少なく、臨時休業でシャッターが下りたままの店舗が目立つ。多くの人は無反応。だがすれ違いざまに振り返ったり、うなずいて同意を示してくれる人や、「俺もそう思うよ」と声をかけてくれる人もいれば「選手がかわいそうだ」と反対意見を言う人もいた。

拡大する雷門近くを歩く男性。前も後ろも同じメッセージが書かれている

 男性は「本当は恥ずかしいですよ。できればやりたくない」と笑う。だが見過ごせなかった。「コロナでまだみんなが苦しんでる。選手もどうしたら良いのか迷ってる。オリンピックをやるのは今じゃない」

 コロナ禍の1年半、テレビ報道を見ては「医師や看護師がかわいそうだ。申し訳ない。この状況はひどいよね」とばかり言う男性に、長女が「そんな事ばっかり言って、何もしない」と言った。自分の考えを示し、他の人はどう思っているのか問う決心をした。「自分の生活の中で出来ることはこれくらいしかない。まあ仕事してないから出来るんだけど」

 男性は五輪中止ではなく、もう1年延期するのが良いと思っている。「ここまでお金を使って準備してきたから中止しなくてもいい。ワクチンが広がり状況が良くなれば、外国から観客を入れられるかもしれない。そうなればホテルも他の業種も喜ぶ。中止になり次が3年先になれば諦める選手がいるかもしれないけれど、1年なら頑張れる選手もいる」と考える。

拡大する仲見世を通る男性。多くの店は緊急事態宣言で休業を続けている=5月13日、東京都台東区、福留庸友撮影

 男性は「五輪開催は変えられないだろう」と心の奥では思っている。だが延期や中止を口にすると国に盾突くとも見られかねない状況で「多くの人が本音を話していないように見える。せめて『自分の声は届けようとやることはやった』と思いたい」。五輪の開催方法が正式に発表されるまで、メッセージを着て散歩を続けるつもりだ。(福留庸友)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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