「動かない鳥」に心動いた…国内たった13羽でも即増版(スポーツ報知)

 「動かない鳥」として動物や鳥類のファンなど、一部では人気だったハシビロコウの生態などを紹介したムック本、その名も「ハシビロコウのすべて」(監修・今泉忠明、1296円)が従来のファン以外からも熱い視線を集めている。先月の発売後、わずか1週間で増版が決定した。全国でたった13羽しか飼育されていない鳥についての書籍が、なぜ注目されるのか。本書を出版した廣済堂出版の代表取締役・後藤高志さん(58)に聞いた。(高柳 哲人)

 体全体から見たらアンバランスなほど大きなくちばしに、頭の後ろにピョコンとはねた毛。「ハシビロコウ」という名前を聞いたことがなかった人でも、見た目のインパクトから一度目にすれば忘れないだろう。

 国内では7施設で計13羽が飼育されているが、本書はその全てを紹介する「ガイド」であると同時に、アフリカでの野生の姿を捉えた貴重なショットも満載。さらに、飛び方や捕食の方法などあまり知られていない生態がイラスト付きで解説されており、これ一冊を読めば、タイトル通りハシビロコウの全てを知ることができる。

 世間的にはそれほど有名ではない鳥だけが載った本を作ることは“冒険”にも思えるが、後藤さんには勝算があったという。

 「知り合いに上野動物園とつながりのある人がいて、『園内で販売されているグッズで、パンダの次に人気があるのがハシビロコウなんだ』と聞いたんです。もちろん、1位と2位の差は相当離れていますが…。それで『好きな人が多いんだ』と知りました」

 さらに、過去に発行されたハシビロコウに関する出版物を調べたところ、千葉市動物公園で飼育されている2羽を撮影し、2010年に発売された写真集を発見。5年間で5刷まで出ていたことに注目し、「一定のパイはあるはずだ」と、出版を決意した。

 「社内の会議でも、『えっ、何それ?』という驚きはあっても、反対の意見はなかった。それどころか、編集者の中にハシビロコウ好きな女性がいて、食いついてきた」(笑い)。

 その動きは社外でも同様だった。後藤さんによると、同社が営業をかける前に、自らの意志で特設コーナーや手作りの販促広告などを作る書店が相次いだ。「出版業界は厳しい」と言われる中で、書店側が自主的に動くという流れに感動を覚えたという。

 「『全く知らない、分からない』と言われる一方で、『よくぞ出してくれた』という書店員さんもたくさんいた。今まで、さまざまな本を出版してきましたが、反応の強さ、反響の数という意味では、過去最高ではないかと感じたくらい。それだけ、ファンが多くて、その人たち向けの本が出版されていなかったのでしょう」

 とはいえ、マニア向けの内容にしてしまっては初心者には振り向いてもらえない。どちらの読者にも満足感を得てもらえるよう工夫を重ねた。

 「まず、国内の全てのハシビロコウを掲載するのは基本路線。その上で、ある程度詳しい人でも『へえ~』と思えるような内容にもしようと。そんな中、『この本は成功する!』と確信したのは、『冠羽(かんう)』と呼ばれる後頭部の毛の写真を見た時。同じ鳥なのに、形が一羽一羽全部違うんです。これは楽しんでもらえると思いました」

 ちなみに、本書がヒットしたことで「二匹目のどじょう」を狙うつもりは…。

 「すでに『〇〇はどうでしょう?』と、とんでもない動物についての本を出さないか、とのオファーは来ています。編集者としては興味がありますが、果たして読者にどれだけヒキがあるのか? それに、一冊全部を一種類の動物で作るというのは、かなり難しいですから。そのあたりを見極めながら、考えていきたいですね」

 ◆人気の秘密は“ギャップ萌え”

 監修を務めた今泉忠明さんは、ベストセラーとなった児童書「ざんねんないきもの事典」で知られる動物学者。本書の企画を聞いた時は「動物園通の人たちの間では隠れた人気者だったのでうれしかった」という。

 ハシビロコウが人気となっている理由については、特徴的な外見と「動かない鳥」という性格が注目されたとみている。「ワイドなくちばし、鋭い目つき。そして不動のまま数十分から数時間、立ち尽くしていることが人気の源なのではないかと思います」。

 動物園では来園時と帰る時に全く立ち姿が変わっていないのを見て「もしかして剥製じゃないの?」と語り合う客もいるほどだ。

 また、動く時には意外に派手なパフォーマンスを見せるという“ギャップ萌(も)え”が、さらに人気を後押ししたと分析する。「動物園愛好家が動いた時を撮影し、雑誌で賞をもらうなどして、皆さんが『ハシビロコウは動く!』と知った時に、人気が一気に高まったと思います」。本書でもそのような姿を見てもらいたいとした。

 ◆ハシビロコウ 水鳥群ハシビロコウ科の鳥で、大きなくちばしが特徴。体高は110~140センチ。アフリカ東部から中央部の湿地やその周辺の草原地帯に住む。ナマズ等の魚類が主食だが、カエルやトカゲ、若い水鳥などを捕食することも。野生の生息数は1997年に1万2000~5000羽が確認されているが、狩猟や捕獲、環境破壊などで現在はさらに減少しているとみられ、IUCN(国際自然保護連合)で絶滅危惧2類に分類されている。

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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