「土石流が!」妻の叫び、間一髪 28時間ぶり夫婦救出

 大量の土砂で一変した集落に、安否を尋ねる捜索隊の声が響いた。静岡県熱海市伊豆山で起きた土石流から一夜明けた4日、泥に埋もれた家屋から人々が救い出された。一方、雨で捜索は何度も中断。安否がわからない人の親族らは不安げに見つめ、避難所に身を寄せた住民は「早く帰りたい」と疲れ切った様子で話した。

 熱海市伊豆山の浜地区では4日午後2時20分ごろ、泥に1階が埋まった自宅ビルから、湯原栄司さん(75)と妻の珍江(よしえ)さん(75)夫妻が救出された。土石流の発生から約28時間。3階建ての2階窓に掛けられたはしごに足を掛け、一歩ずつ下りた。「おけがはないですか」「ありがとうございます」。救助の警察官から声を掛けられると、珍江さんは小さな声で応じた。

 街は茶色く一変し、バスの車体の中ほどまで泥に覆われた。ぬかるんだ泥の上に敷かれたベニヤ板を踏み外せば、ひざまではまってしまう。2人は肩を支えられながら、ゆっくりと避難所に向かった。

 土石流が発生した3日、居間のある3階にいた珍江さんは、不思議な轟音(ごうおん)を聞いた。「大雨だから、どこかへ重機が出動しているのかしら」。窓から外をのぞくと、大木などを巻き込んだ土石流が向かいの家の1階をえぐり取っていった。こちらには来ず、土砂の様子を見ていると、約30分後、今度はさらに大量の黒い波が来た。

 夫の栄司さんは、山の状況を見るために屋外にいた。「土石流が来てる!」。叫び声で、栄司さんは自宅に駆け込み、間一髪で助かった。

 この「第2波」で、1階にあった台所も、風呂も、トイレも、車も埋もれた。

 ガスと水道は止まったが、奇跡的に電気はついた。3階にあった1リットル入りのペットボトルの水を2人で分け、カップ麺を食べて救助を待った。

 4日になった。救助隊は泥まみれになって近づこうとしてくれるが、行く手を阻まれる。ショベルカーが泥を少し取りのぞいたかと思うと、時折強く降る雨で土砂災害の緊急速報が出され、捜索は何度か中断した。「またいつ土石流が襲ってくるか」。おびえながら過ごした。

 地区の別のアパートでは、2階から乳児と母親が救助された。窓から身を乗り出した母親が、バスの屋根から手を伸ばす警察官に毛布にくるんだ乳児を託す。手から手へとさらにリレーされ、無事に救助されると「おー」と安堵の声があがった。乳児は隊員の腕の中で大声で泣いた。

 地区の約20世帯が大きな被害に遭ったとみられる。この地区で生まれ育った珍江さんは「今でも信じられない」と話した。

「土砂が空を舞うようだった」

 安否不明者の捜索は4日早朝…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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