「好き」と「恋愛」が結ばれなくて フィギュア元ペア・高橋成美さん

 フィギュアスケートのペアでソチ五輪に出場した高橋成美さん(30)が10月中旬にあったイベントで、「自分は(性的少数者の)Qだと思う」と話しました。

 日本では、性的少数者であることを明かすアスリートはごくわずかです。なぜ公表しようと思ったのか、高橋さんに聞きました。

2日午前に配信した「『Qだと思う』語ったフィギュア元ペア・高橋成美さん 公表した思い」の詳細版です。朝日新聞デジタルだけで読めるオリジナル記事です。

 (「Qだと思う」と言ったのは)東京オリンピック(五輪)・パラリンピックから1年のイベントで、「LGBTQ」がテーマの一つになっていたトークショーでした。

 「カミングアウトした」という意識はあまりないんです。

 発言することで批判があったとしても、短期的なもの。一方で、発言によってホッとする人もいるはずで、その人たちにとっては長く心に残るだろうと考えていました。「それならば行動しない理由はない」と考えていたことが発言の経緯です。

 私は人を好きになることがたくさんあるのですが、それを「恋愛」という形に結びつける方法が分からないんです。

LGBTQの「Q」

L(レズビアン)G(ゲイ)B(バイセクシュアル)T(トランスジェンダー)にあてはまらない性的指向・性自認をもつ「クィア」や、性的指向や性自認が定まっていない「クエスチョニング」を指す。

 小学校までは、他の人との違いを感じることはあまりありませんでした。ただ、中学校あたりから置いてけぼりな感じがし始めて、「人と違うんじゃないかな」と感じるようになりました。

 フィギュアスケートに打ち込んでいた時は、「フィギュア第一」だったのであまり気にしませんでした。ただ、周囲で結婚する人も増えてきました。会話をする中で「30歳になって付き合った人いないの? それヤバイよ」と言われることもありました。「ヤバイのかな?」と自分でも思っていました。

 1年前、ケイトリン・ウィーバーというカナダの元アイスダンス選手が「クィア」であると公言しました。元々、私にとって憧れの存在です。練習拠点も一緒でいつも優しく接してくれた先輩でした。ウィーバーさんがクィアだと知った時は心強かったし、自覚していなかった負担や重りが溶けたように感じました。

 そうした実体験があったことも、今回公言した経緯の一つです。誰かに届いて、少しでも心が軽くなったのだとしたらうれしいです。

 高校生の頃、私はカナダのモントリオールにいました。

 もちろん、性に関する話題には気を使いましたが、自分の性についてオープンに話すのが一般的な環境でした。そうした経験もあり、家族や友人は元々知っていました。性について公になったとしても(周囲の人が)離れていく心配がない、恵まれた環境ではあったと思います。

 ただ、苦しさもありました。私は感情を表に出すタイプで、「好き」と思ったら「好き」と伝えていました。でも、それが恋愛には結びつかない。誰かを傷つけたり、イライラさせてしまったり。自分自身、無責任な行動をしているのでは、と心が締め付けられたこともあります。

 私の性のあり方について、説明してもピンとこない人もいると思います。でも、それも当然かなと思っています。私も30年生きてきて、「ストレート(異性愛者)」の人の恋愛感情は分かりませんから。これまで、周りの人に性について打ち明けた後も、今まで通り接してもらいました。それが一番うれしいですね。

 イベントでは「Qかも」と答えましたが、それは「あえてカテゴライズするなら」というもの。今後どうなるか、というのは正直分かりません。

 けれど、その時に自分がしたい選択ができるような社会になっていればいいなと思います。「アライ」と呼ばれる性的少数者を支える人を増やすことや、理解を深めることが同時進行で必要だと思っています。

 個人的には「誰しもカミングアウトすべきだ」とは思いません。ただ、性について隠さずにいられる、ありのままでいられる世の中になったら素敵、ということは伝えたいですね。(構成・藤野隆晃

     ◇

 〈たかはし・なるみ〉 1992年、千葉県出身。2012年のフィギュアスケート世界選手権で、ペアでは日本選手初の表彰台となる銅メダルを獲得。14年にはソチ五輪に出場した。日本オリンピック委員会(JOC)理事を務める他、フィギュアの指導者、解説者として活躍している。

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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