「学校制度は限界」 現役教諭が説く教員と子どもが幸せになる方法

 「学校という制度は、もう限界」。では、どう変えればいいのか。教員の働き方や学校の役割について、現役教諭が大胆な提言の書を出した。

 「先生2・0 日本型『新』学校教育をつくる」(さくら社)を8月に出版した、富山県魚津市立小学校教諭の能沢英樹さん(58)。2016年から6年間、県教職員組合で執行委員長などを務め、過労死した教員の公務災害の申請にも携わった。

 命を失う人までいるのに長時間労働はなくならず、いじめや不登校は深刻になるばかりだ。「学校の役割を見極め、制度にのっとって働くことで、教員も子どもも幸せになれると伝えたかった」と語る。

 著書は、ブログやSNSへの投稿をベースに編んだ。過去約30年間に、社会や教育界に起きた変化を振り返り、調査や統計を引用しながら、子どもと学校の現状を分析。教員の負担を減らす具体的な手だてや、進め方を提案している。

 「同年齢の子どもを集めて一斉に勉強させることが学校の苦しさの根源」と捉え、対応策として「学びの質を変えよう」と説く。

 本物に触れたり、体験したりしながら、子どもが主体的に考える授業を増やし、テストや通知表は、なくすか最小限に。教員に生まれるゆとりを、学習成果が十分でない子に注ぐ。授業を受ける場所や、学ぶ内容を子どもに決めさせる「学習の自由」の保障も唱える。

「負の連鎖が起きている」

 能沢さんは平成元(1989)年に教員になった。「全人的教育を請け負い、時間を問わず働くのが当たり前。サービス業という意識でスタートしました」

 文部科学省は「ゆとり教育」を掲げ、2002年には学習内容を約3割減らした。だが、学力低下が批判されると「脱・ゆとり」に方針転換し、07年には全国学力調査を始めた。

 教育内容ばかりでなく、行事や部活動にかける時間も増えた。本来、教員の勤務時間は7時間45分だが、16年の文科省の調査では、在校時間は小学校、中学校とも11時間を超えていた。

 教員には残業代を払わず、代わりに給料の4%を上積みすると定めた法律が、その元凶だと能沢さんはいう。

 「教員が150%の業務量を抱え、ゆとりがないから授業準備に時間がかけられない。授業がつまらないから、子どもの問題行動が増えて、さらに時間が削られる負の連鎖が起きています」

 「熱意や長時間労働に頼らないと成立しないなら、制度設計そのものが破綻(はたん)している」と指摘する。

 まず手をつけるべきは、小学校の行事、中学校の部活動だという。部活動は、「急に短縮するのが難しいなら1年に20、30分ずつでも」。大きな反発や、デメリットがあることも踏まえたうえで、「保護者や地域の人と話し合いながら、着地点を見つける作業が必要。できる教員が、できる範囲で活動時間を確保するべきだ」という。

 学校の将来像については、大胆な構想を描く。時間割によって一斉授業をするが、参加するか否かは自由で、家からリモートで受けてもいい、といった具合だ。実現は難しそうにも思えるが「実際に、不登校がこれだけ増えている。自分で授業を選ぶぐらい、手綱を子どもに渡さないと」。

 学校制度に危機感を抱き、発信を始めた人らの大きな輪の一部になって世論をつくれたら、と話す。(佐藤美千代)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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