「抜け穴」「ダミー」の文字 ゴーン元側近、どう説明?

 日産自動車の元会長カルロス・ゴーン被告(67)が巨額の役員報酬を開示しなかったとされる事件で、側近だった元代表取締役グレッグ・ケリー被告(64)に対する公判は7月に実質的な審理が終わった。終盤に行われたのは13回の被告人質問。「抜け穴」や「ダミー」と書かれた資料を検察側から示されたケリー元役員は、あくまで「合法」の枠内と説明して無罪主張を貫いた。

 ケリー元役員は金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)罪の共犯に問われた。ゴーン元会長が海外逃亡を続ける中、裁判は昨年9月に始まり、7月までに約70回開かれた。

約70回の公判 終盤に被告人質問

 1億円以上の報酬を得た役員と金額を個別に開示する制度が2010年に導入され、ゴーン元会長が高額報酬への批判を懸念したところまでは争いがない。食い違うのは、在任中に実際に支払われた報酬以外に、開示義務のある確定報酬があったかどうかだ。

 検察側は、元会長が各年度の報酬をその年に受け取る分と後で受け取る分(未払い報酬)に分け、10~17年度の8年間で計約91億円の未払い報酬を有報に記載しなかったと主張。未払い報酬の累積額を1円単位で管理する「合意文書」などを元秘書室長が作り、ケリー元役員は累積額を元会長が退任した後に顧問料や競合他社に行かないことへの対価といった名目で支払う「契約書」を作成したなどと指摘する。

報酬激減で「ゴーンさんが日産を離れるリスク」

 検察と司法取引した元秘書室長らは検察の描く構図に沿った証言をした。こうした中、被告人質問は弁護側から始まった。

この後、13回を数えた被告人質問のやり取りを詳しく紹介します

 ケリー元役員はゴーン元会長の報酬は実際に受け取った分に減っただけで、未払い報酬は「あったとは思っていない」と供述した。合意文書も「私は見たことがない」と語った。

 強調したのは、報酬の激減に不満を募らせた元会長が「日産を離れるリスク」。11年には元会長が「14年ごろまでに退職する意向を示した」と振り返った。

 そのうえで退任後の処遇を記した契約書は「世界でベストな経営者の一人であるゴーンさんを(退任後も)日産につなぎとめる」目的だと主張。契約書で検討したのは、在任中に確定していた報酬の未払い分の支払いではなく「退任後の業務への支払い」で、開示の対象外だと繰り返した。

 証人尋問では、元秘書室長は合意文書について「ケリーさんに相談し、文書も見せた」と証言。元法務室長は「ケリーさんは『ゴーンさんのためなら刑務所に行くこともいとわない』と言っていた」と述べていた。ケリー元役員は「事実ではない」などと、いずれも否定した。

検察側、違法行為を連想させる資料を次々と

 一方の検察側は、ケリー元役員のメールを含む客観証拠で主張を崩そうとした。

 「loophole(抜け穴)」「dummy(ダミー)」。検事は、違法行為を連想させる単語が使われた資料に着目し、意味を尋ねた。ケリー元役員は「あくまで法的な制約の中で何ができるかという意味」などとかわした。

 検事はケリー元役員が14年に使った元会長への説明資料1枚も示した。コンサルタント業務といった支払い項目が列挙された横に、「目的」として各年度の「shortfall(不足額)」が書かれていた。

 検事は報酬の不足額が前提にあり、その補塡(ほてん)策を検討していた証拠とみて追及した。ケリー元役員は「shortfall」は元会長が「失った価値」と表現し、「ゴーンさんが重視していた」と説明。ただ、「我々が合法的に提供する価値は、それとは関係なく算出された」と関連性を否定した。

実質的な審理終わる 9月末に求刑へ

 次回は9月29日で検察側が論告求刑する。弁護側の最終弁論は10月27日で、その後に判決となる。裁判所が客観証拠や証言に照らしてケリー元役員の供述をどう評価するかが注目される。(金子和史)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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