「本国で怖くても、日本なら」薬物犯罪が急増 突然かかってきた電話

 在留ベトナム人による薬物犯罪が相次いでいる。警察庁によると、国籍別の検挙数で昨年、初めて最多になった。海外からの密輸事件も起きており、警察や税関は警戒を強めている。

 神戸税関は9日、合成麻薬MDMA約5千錠(末端価格約2500万円)を密輸しようとしたとして、ベトナム国籍の男(28)を関税法違反の疑いで告発した。この男は今年7月にも同法違反で告発されている。

 6月には、兵庫県警が、別のベトナム国籍の男3人を麻薬取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕した。国際捜査課によると、食料品が詰められた段ボールの中に、お茶の袋に入れた麻薬ケタミン100グラム(約1千回分)を紛れ込ませていたという。

 県内では昨年5月、違法薬物の密売グループらベトナム人計16人が覚醒剤や大麻を密輸したとして覚醒剤取締法違反(営利目的譲渡、同所持)容疑などで県警に逮捕されている。

 警察庁が3月に発表した「組織犯罪の情勢」によると、覚醒剤や大麻、麻薬といった薬物の犯罪で昨年検挙されたのは全国で1万3862人おり、うち外国人は1086人(7・8%)。国籍別はベトナムが226人で、前年度から1・5倍に急増し、外国人全体の20%を占める。

ベトナム人の薬物犯罪、なぜ増えた

 検挙急増の背景には何があるのか。

 在留ベトナム人は、昨年12月末時点で全国に43万人。2011年の4万4千人から、この10年で10倍近く増えた。多くが留学生や技能実習生などの若者だ。

 「ベトナム国内で、若者の麻薬の乱用が社会問題になっている」と捜査関係者は明かす。若者の来日急増が、薬物検挙の増加につながっているとみられる。

 6月に逮捕されたうち、麻薬を受け取った2人は物流倉庫で荷物を仕分けるアルバイト店員だった。来日した若者は生活費や仕送りを稼ぐためハードな労働に身を置くことも多く、同課担当者は「仕事に疲れて、楽になろうと軽い気持ちで手を出したのかもしれない」と推察する。

 ベトナム国内では麻薬犯罪の量刑は重く、密輸に関わり死刑判決が下されたケースもある。一方、日本では10年以下の有期懲役がほとんど。「本国では怖くても、日本でなら、と安易に考えてしまうことも一因では」と同課は分析する。

 検挙が増えている状況を、同じベトナム人はどのように見ているのか。

 「神戸ベトナム人会」(神戸市長田区)で在留ベトナム人のコミュニティー作りに携わるベトナム人女性(58)の元には1年ほど前、「麻薬犯罪に関わってしまったかもしれない」という相談の電話が突然かかってきた。

 電話主の若い男性は「弁護士を紹介してほしい」と切羽詰まった声で言った。知り合いから頼まれて配送した荷物が麻薬だったのだという。後日逮捕された。

 女性は「多くの若いベトナム人は一生懸命働いているが、フェイスブックなどで悪い遊び仲間と簡単につながってしまいやすい」と指摘する。(黒田早織)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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