「終わったことにされてしまう」 自殺した刑事の遺族、県を提訴

 熊本県警玉名署の刑事課巡査だった渡辺崇寿さん(当時24)が2017年9月に自殺したのは、当時の玉名署長が安全配慮義務を怠り長時間労働を続けさせたためとして、渡辺さんの遺族が6日、県を相手取り7818万円の損害賠償を求める訴えを熊本地裁に起こした。

 訴状によると、渡辺さんは17年4月に刑事になり、亡くなるまで5カ月連続で1カ月あたりの時間外勤務が110時間を超えた。亡くなった後の20年11月には公務災害の認定を受け、その書面には「業務による強度の精神的または肉体的負荷があったものと認められる」と記された。

 代理人の光永享央(たかひろ)弁護士によると、遺族は20年12月、県警に対し、渡辺さんの自殺の責任を認めて、内部の調査報告書の内容を遺族側に隠したことと合わせて謝罪することや、パワーハラスメントの有無も調査して長時間勤務の是正などの再発防止策をとることを求める書面を出した。

 だが、県側からは今年1月、渡辺さんの冥福を祈るとしたうえで、「このような悲しい出来事が繰り返されないように努めてまいります」と記された知事名の書面が届いただけだった。

 渡辺さんの母、美智代さん(62)は自殺直後から当時の上司ら玉名署の責任者からの謝罪を求めてきたが、これまでに謝罪はないといい、このままでは渡辺さんの死が県警の中で「なかったこと、終わったことにされてしまうのでは」と提訴に踏み切ったという。

 美智代さんは「息子は県民の安心安全のために仕事をするんだという気持ちで県警に入職した。県はなぜ、このような不誠実な対応しかしないのか」と話し、「なんでこの子が死ななければならなかったのか」と声を詰まらせた。

 兄の真道さん(30)は県からの回答を見て「当事者意識を持っていないのか」と感じたという。「こちらが求めているのは誠意と改善で、その点に触れてもらえれば違った形で話し合いが進められた」

 妹の珠美さん(26)は「ただ本当のことを知りたいというだけなのに、(県は)なんでここまでしか言えないんだろうというのが悔しくて」と話し、「本当のことが知りたいです」と繰り返した。

 県警監察課は取材に対し「亡くなられた渡辺さんのご冥福をお祈りすると共にご遺族に心からお悔やみ申し上げます。訴状が届いていないので現時点でのコメントは差し控えます」と述べた。(吉田啓)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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