「落ちたー!」防波堤に響いた叫び声 力を合わせた6人の釣り人たち

 日曜夕方、10人ほどが散らばって釣りを楽しむ防波堤に女性の叫び声が響いた。「落ちたー!」。海中に転落した男性を救出しようと、近くにいた当時70代の男性3人が動き、40、50代の男性3人も加勢した。

 5月14日午後4時半ごろ、愛媛県伊方町亀浦の漁港。防波堤の上で釣りをしていた男性(74)=西予市=が突然、約4メートル下の海中に転落した。一緒にいた妻が大声で周りに知らせた。男性は妻が差し出した釣りざおをつかんだが、体が思うように動かない。潮は沖へ流れていた。

 近くにいた松山市の奥出浩敏さん(80=当時79)、山本孝行さん(74)、大西正司さん(79)の3人は、釣り仲間でこの防波堤の常連だ。

 奥出さんがたも網を男性に差し出し、釣りざおから持ち替えさせた。たも網を操って男性を防波堤の海側に積み上げられた波消しブロックの山に寄せた。

 山本さんと大西さんは、波消しブロックの山の裾野へ下りた。大西さんがたも網をつかみ、「大丈夫よ、大丈夫よ」と何回も呼びかけた。

 少し離れた場所で糸を垂れていた、西条市の磯野充さん(57)、今治市の木村正臣さん(46)、東温市の篠原北斗さん(45)の3人も駆けつけ、裾野にいる大西さんと山本さんと合流した。

 海中の男性は意識ははっきりしていて会話もできるが、全身に力が入らない状態。裾野の5人も波消しブロックが足場で力を出せない。男性は大柄で衣服に海水がしみ込み、かなり重い。それでも5人で力を合わせて裾野に引き揚げた。

 男性の脇の後ろから手を入れて右腕を篠原さん、左腕を磯野さん、男性の両足と腰を山本さん、大西さん、木村さんが持ち、山頂の防波堤の上をめざした。

 各自が足場をしっかりと定めた後、「せーの」のかけ声に合わせて、男性を持ち上げ、上の段に座らせる。この手順を3、4回繰り返し、頂上まで運び切った。男性は病院に搬送され、無事だった。

 松山海上保安部は6人に感謝状を贈った。6月3日にあった贈呈式で、大西さんは「この人らあがおったけん、揚げられたんよ。年寄りばっかりやったら……」と40代、50代の3人をたたえた。木村さんは「人生の先輩方が落ち着いていろいろ言ってくれ、僕も冷静でおれたんやと思う」と感謝した。(中川壮)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

Japonologie:
Leave a Comment