「言葉で命救えなかった無力感」 津波伝えた武田アナ、被災地で話す

 元NHKアナウンサーの武田(たけた)真一さん(56)が7日、宮城県名取市閖上を訪れ、講演をした。閖上は12年前の3月11日、東京のスタジオから、街が津波にのみこまれる様を実況で伝えた場所だ。約200人を前に、あの日からの思いを語った。

 武田さんは、地震発生の約1時間後からニュースを担当した。直後、名取川を遡上(そじょう)する津波をとらえたヘリ映像が入ってきた。

 「黒い波が住宅や畑をのみこんでいます。車が」と言いかけて、言葉に詰まった。道路を走る車に、津波が追いつこうとしていた。目の前の人を助けられない――。「言葉や放送は、なんて無力なんだと思った」と振り返った。

 津波で多くの犠牲者が出た閖上には、罪の思いからなかなか足を運ぶことはできなかった。転機は2018年。同僚の案内で閖上の人たちと初めて会った。

 「役立たず」との非難を覚悟したが、違った。逆に多くの人が震災のこと、震災前のことを語ろうとしていることに驚いたという。それ以来、穏やかな交流が続く。来るたびに心落ち着く場所になった。

 今年2月にNHKを辞めフリーになった。今、こう考えるという。

 「報道を離れ、単に1人の人間として大好きな閖上の皆さんに会いに来たい。こうやって『未災地』の者が被災地とつながり、喜びや楽しさを共有することが大事なのではないか」

 講演後、津波で夫と息子を亡くした女性が、武田さんに「もう自分を責めないでくださいね」と、声をかける場面もあった。

 講演は震災伝承団体「閖上の記憶」が主催した。(編集委員・石橋英昭

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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