わたしひとりのオリーブ園 60歳から島で始めたフリーハンドの人生

 男女の別のない仕事を続け、子どもたちは独り立ちした。定年退職したあと、自分の人生をどうつくっていこう。植西英子さん(72)が選んだのは、ひとりで営むオリーブ農園だった。甘くはないけれど、やりがいがある。そしてこれまでの経験と見守ってくれる仲間たちもいる。

定年まで2年、フェリーに揺られて島へ

 小豆島へ渡るフェリーでの1時間のことは、いまもよく覚えている。

 瀬戸内の海はおだやかで、うとうとするうち日常は遠ざかり、光の降る場所へと向かう感覚が心地よかった。

 男女の別のない職業として臨床検査技師を選び、職場となった東京の病院で、60歳の定年が2年後に待っていた。娘たちとは互いに子離れ、親離れする時期だとも考えていた。

 フリーハンドでこれから自分の人生をどうつくろうか。翌年、再び島を訪ね「ここでわたしのオリーブの木を育てる」と決めた。

 移住は退職から1カ月後。住まいは空き家バンクで一軒家を買った。

 「島に根をおろし、オリーブ園を事業にするつもりでいても、ひとりで始める初めての農業です。家を買うことは、周囲に私は本気だと伝える手段でもありました」

 美しく小さい農園にしたくて「ジョリプティトファーム・ドゥエイコ」と名付けた。栽培は畑の土地と水がなければ始められない。だがそれは島での信用そのもので、新規就農者にとっては、最初で最大の壁になる。暮らして、体を動かして、徐々に関係を築いていくしかない。

 「あせるのはやめました。職…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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