コロナ禍、「共にある」人たちへバトン渡す 作家・深沢潮と訪ねた場

作家の深沢潮さん=川崎市川崎区、井手さゆり撮影

 コロナ禍で私たちは、どうしても自分や身近な人の健康や生活を中心に考えてしまう。一方で、社会で共にある多くの人たちをこれまで「見ていなかった」ことに気づき、目をこらし、手を差し出すための一歩を踏み出せるのも、今だからなのかもしれない。在日コリアンの作家、深沢潮さんと二つの「場」を訪ねた。

第5波、自宅療養者へ飲み物を配ったわけ

 昨年12月、深沢さんと記者は、東京・新宿の公園へ2人の男性に会いに行った。新宿の歌舞伎町でバーを営む川原宙(ひろし)さん(35)と仕事仲間の藤井拓郎さん(30)。「自宅療養者にポカリを届け隊!」として、新型コロナの感染が急拡大した昨夏の第5波のなか、SNSでつながった自宅療養中の人たちへ飲料を無償で届けた。

 「ボランティアとか人助けとかいった意識はない。病気のときはコーヒーじゃなくて、やっぱポカリやん。ただそれだけですよ」

 屈託なく話す藤井さんに、深沢さんはうなずいた。

 8月、東京では数千人単位の新規感染者が連日発表され、治療や支援が行き届かないまま自宅で療養を余儀なくされた人たちが大勢いた。川原さんたちは多いときは1日20世帯、ひと月余りで約140世帯へ置き配をした。いずれもツイッターを通じて連絡があった、見知らぬ人たちだった。

 きっかけは8月初め、藤井さんが新型コロナに感染したことだった。40度を超す熱が出たが、医師からは電話で感染を診断されたのみ。行政からやっと自宅に届いた段ボールには、アイスコーヒーや菓子、カップ麺が詰まっていたが、のどが痛くてとても口にできなかった。川原さんが2日に1度、玄関前に届けてくれたポカリスエットで命をつないだ。

 「第5波で行政や医療が能力の限界を超えていたとはいえ、見捨てられたと思った人も多かったでしょうね。これでは国に言われなくても『自助』『共助』で生きるしかない」と深沢さんは話した。

 川原さんは振り返る。「東京には、藤井くんみたいな地方出身や一人暮らしの人も多い。夫婦で暮らしていても同時に感染したら? 幼い子どもはどうしてる? そう思って置き配を始めたんです。早くたくさんの人に届けるにはツイッターしかないと思った」

自宅療養者に飲料を無償で配った藤井拓郎さん(左)と川原宙さん。作家の深沢潮さん(右)と=東京都新宿区内、桜井泉撮影

 「自宅療養者に無料で必要な物資を」

 ツイッターには、呼びかけ文とともに、信用されるようにと顔写真も添えた。まず必要なものをすぐにと考え、配るのはスポーツ飲料とゼリー飲料に限った。「一人で心細く保健所から連絡待ちの中とてもうれしかった」「たった数時間で家まで来てくださり、こんなに頂きました」。感謝の言葉と写真が次々とアップされた。

 「拡散力の強いツイッターは見知らぬ人々を瞬時につなぐ。こんないい使い方もあるんですね」

 深沢さんの表情が和んだ。ツイッターには、苦い経験がある。在日コリアンであることをしつこく攻撃され、発信を一時期止めた。再開したが、誰かを「フォロー」するのは今も一切やめている。

 「ひどい中傷が届いて心が削られるようだった。SNSは刃物のようなもの。だれがどう使うか次第で、人の心を突き刺す凶器にもなるし、人をつなぎ命を救う道具にもなるんですね」

つながりとは、何でしょうか。記事後半では、深沢さんが技能実習生らの通う「識字学級」を訪れ、コロナ禍で浮き彫りになった課題について考えます。

ハンカチ落ちましたよ、と声をかけるようなもの

 第5波を機に、東京では様々…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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