コロナ禍での解雇「無効」 バス会社に賃金支払い命じる

 新型コロナウイルスの感染拡大で業績が悪化した観光バス会社から整理解雇された運転手の男性が、雇用関係の確認と未払い賃金支払いを求めた仮処分の申し立てで、福岡地裁は「解雇は無効」として、男性に月約18万5千円を支払うよう会社に命じた。コロナ禍での解雇をめぐる司法判断はまだ例が少なく、専門家は「コロナを理由にした安易な解雇に警鐘を鳴らすもの」と評価している。

 3月9日付の決定によると、バス会社は福岡県内に本社を置き、2019年には月2千万~3500万円の売り上げがあったが、中国や韓国からの観光客が激減したことで、昨年3月は約399万円、4月は約87万円、5月にはゼロに落ち込んだ。従業員20人のうち、男性を含む運転手2人を昨年3月末で解雇した。

 小野寺優子裁判官は、昨年2月以降、同社が貸し切りバスを運行できなくなったことや、従業員への支払いに充てる国の雇用調整助成金の支給額が不透明だったことなどから「人員削減の必要性は一応認められる」と指摘。一方で、削減規模や人選の基準を説明せず、希望退職者も募らずに解雇予告したことは「拙速と言わざるを得ない」とした。新たに始める高速バスの運転手に男性が手を挙げなかったことを理由とした人選も「客観的な合理性を欠いて、社会通念上相当とは言えない」とした。

 その上で、会社が昨年4月以降の休業中に従業員に支払っていた月17万5千円を上回る、月18万5千円を支払うよう命じた。国は休業手当として、平均賃金の6割以上と定めているが、決定では男性の解雇前3カ月間の給与に未払いの残業代を加えた額の6割を採用した。

 業績悪化で従業員を整理解雇するには、①人員削減の必要性②解雇を避ける努力③人選の合理性④手続きの合理性、の四つの要件が求められる。代理人の西野裕貴弁護士は「経営が厳しくても解雇の手続きが適正でなければ違法になる。解雇して労働力を失う一方で賃金支払いは命じられ、訴訟リスクを負うことにもなる」と話す。

 会社側の代理人弁護士は「主張が認められず残念。今後は経営状況をきちんと説明するなど四つの要件を考慮した上で手順を尽くしていく」とコメントした。

 厚生労働省によると、昨年5月以降、コロナ禍で解雇されたり、解雇が見込まれたりする労働者は約9万8千人。コロナ禍での人員整理をめぐっては、東京のタクシー会社などで裁判になった。日本労働弁護団幹事長の水野英樹弁護士は「整理解雇にはきちんとした手続きが必要。コロナが理由でも安易に解雇はできないということを示した決定だ」と述べた。(山野健太郎、布田一樹)


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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