ダメ元で解析、現れた時速120キロの痕跡 捜査に起きた「革命」

 根元からポキリと折れた鉄柱。車体が引きちぎれたような自転車。歩道上は、あらゆる物がなぎ倒されていた。

 部品や破片がぐちゃぐちゃに散らばり、車道には車が横滑りした際に付くタイヤ痕が残っていた。

 「いったいここで何が起きたんだろう」

 愛知県警交通指導課で鑑識担当をしていた大橋一仁(60)は、現場で考え込んだ。

 捜査のカギとなる車の速度を割り出すにも、車両の破損があまりにも激しい。へこみなどの物理現象から証明するのは難しいと、一目見て感じた。大橋には大きな責任がのしかかっていた。

事故を起こし大破した乗用車を調べる捜査員ら。周辺にははね飛ばされた自転車などが散乱していた=2010年2月1日、名古屋市熱田区、古沢孝樹撮影

 2010年2月1日未明、名古屋市熱田区の交差点でたまたま信号待ちをしていた、20~30代の男女3人がはねられて死亡するひき逃げ事件が起きた。

 裁判記録によると、経緯はこうだ。

 ブラジル人の男4人による窃盗グループが、トヨタの高級車「セルシオ」に乗って愛知県内を走行していた。半年ほど前から各地で窃盗を繰り返していた。この日も宝石店や飲食店で指輪やレジスターを盗んだあと、名古屋へ。国道1号を東に進んだ。

 午前1時前、パトカーがセルシオを見かける。盗難車とみて追跡を始めた。振り切ろうとした運転手の男(当時26)は、信号を次々と無視し、クラクションを鳴らしながら猛スピードで直進した。

 交差点にさしかかったところで、右折してきた対向車に気づいた。

 男がよけようとしてハンドルを急に左に切ったところ、車体が制御不能に。鉄の塊は滑るようにして歩道に乗り上げた。そこに、信号待ちをしていた3人がいた。

 スピンして3人をはね、フェンスに激突。ようやく停止した。窃盗グループの4人は、誰も救護することなく車を放置し、その場から走り去っていた。

乗用車が歩道に突っ込む事故があった現場付近=2010年2月1日、名古屋市熱田区、古沢孝樹撮影

一か八かにかけた

 その日の午前7時ごろ、大橋は県警本部に出勤してきた。いち早く事故の状況が把握できるため、早朝出勤は大橋の日課だ。当直員がまとめた記録を見て、ひき逃げ事件の発生を知った。

 捜査員の詰め所にすぐさま電話をかけ、概要を聞き取り、現場に駆けつけた。

 惨状を前に、疑問が頭をめぐった。

 「どうやって速度を割り出すんだ? どうやって……?」

2021年に交通事故で亡くなった人は全国で2636人。悲惨な事故は後を絶ちません。交通事故捜査のベテラン警察官の足跡をたどって、事故捜査の現場と、事故が招く悲劇の実相に、6回の連載で迫ります。

 刑罰の重い危険運転致死傷罪

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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