トランスジェンダー役に当事者俳優を 映画界は変わるか

 トランスジェンダー役はトランスジェンダー当事者の俳優に――。近年、国際的にこうした動きや議論が広がりつつある。日本でも今月、当事者を公募で起用した短編映画が公開される。活躍の場が少ない現状に加え、劇的に描かれがちな表象の問題にも一石を投じたいという試みだ。

実像から離れた「極端な表象」

 10日公開の「片袖の魚」。性別に関係なく使える多目的トイレを勧められてひそひそ話をされたり、同窓会で特別扱いされたり。自認する性別と逆の男性の体に生まれたトランスジェンダー女性が、周囲の反応に戸惑いながらも前を向く34分の物語だ。

 東海林毅監督は、日本では生まれたときの性別に違和感のないシスジェンダーがトランスジェンダー役を演じることが通例となり、トランスジェンダー俳優の活躍の場が限られていると指摘。今作では「雇用機会の不平等をなくすには当事者が演じたほうがいい」と当事者俳優を募った。

 素人も含む20人からオーディションを経て、主演にモデルとして活動するイシヅカユウさん、友人役に広畑りかさんが選ばれた。

 バイセクシュアルの東海林監督は、性的少数者が描かれるときの、実像からかけ離れた「極端な表象」にも疑問を呈する。トランスジェンダー役は「喜劇的か悲劇的に寄ってしまうことが非常に多く、いつまで経っても社会で異質な存在としてしか描かれない」。映画では、劇的ではない日常と心の機微を丁寧に描く。

 イシヅカさんも「当事者性というより、エンタメとして消費するような取り上げ方しか私は見たことがなくて、嫌な気持ちもあった」と打ち明ける。

 「自分と違う役を演じるのが俳優」「実力より当事者性で配役を決めるのか」という声もあるが、2人も、当事者だけが演じるべきだと考えているわけではない。イシヅカさんは「俳優冥利(みょうり)を考えれば、自分と遠う役をやってみたいのが自然だし、私もその気持ちがある。でもまずは活動の場がトランスジェンダーにもフラットになって、もっと色々な人が参入できる業界になればいい」。

映画が現実へ派生していく

 米国では、女性俳優がトラン…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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