ヒグマ、同性婚、北方領土…北海道の「境界」連載前、若手記者座談会

 朝日新聞北海道報道センターは連載企画「ボーダー2.0」を年末年始に掲載します。

 2021年、私たちは北海道を拠点に取材をするなかで、「境界」を感じさせるさまざまな出来事に出合いました。

 たとえば、人間とヒグマの暮らす境界。ヒグマに襲われた死傷者数は過去最多となりました。互いに領域を侵せば被害が出ます。共存のためには適切な線引きが必要です。

 差別が生んだ境界もあります。「障害者は子どもを産むべきでない」という差別思想が生んだ旧優生保護法により、かつて全国で多くの人が不妊手術を強制的に受けさせられました。その不法を問う裁判が、札幌をはじめ全国で続けられています。

 そして、昨年から世界を覆い続けるコロナ禍。人と人との間に見えない壁ができてしまったように私たちには感じられます。

 私たちを隔て、分断する境界。その性質は多様です。

 タイトルには境界を意味する英語「ボーダー」とバージョンアップを示す「2.0」を組み合わせました。

 連載を通じて、そうした境界の今を探るとともに、問題解決に何が必要か、望ましい境界の未来を模索します。

(「ボーダー2.0」は朝日新聞デジタルと北海道版に掲載する予定です)

最後に読者アンケートのお知らせがあります。お答えいただいた方から抽選で図書カード2千円分を差し上げます。

若手記者3人、狙いを話し合う

 「ボーダー2.0」を企画した若手記者3人が、今年の北海道のニュースを振り返り、連載に込める狙いについて話し合った。

 川村 一番印象に残っているのは、6月に札幌市東区の住宅街に現れたヒグマだ。当日の朝、先輩から「住宅街に出たから現場に向かって」と電話があり、信じられなかった。射殺の現場に居合わせ、銃声を間近で聞いた。襲われた市民もいたので「もう大丈夫」とほっとした半面、「殺してしまってごめんね」という悲しみもこみ上げた。

ヒグマを山に返すのは非現実

 平岡 襲われた男性に会い、傷口を見て恐怖を感じた。それでも射殺の様子を伝えるテレビ中継にはショックを受けた。あのヒグマを殺さず山に返す方法はあるのか、大学教授らに取材したが、現状では非現実的な発想だと知った。教授らには「住宅街に来させない方法を追求すべきだ」と説かれた。

 佐野 北海道で車を運転していて何度かキツネなどの動物をひきそうになった。動物たちに「ここは来ちゃだめだよ」と言えたらどんなに楽だろう。自然豊かな北海道ならではの共生の課題がある。

若手記者3人の経歴

佐野楓(25) 宮城県出身。入社3年目、今年4月に札幌赴任。札幌市政担当 平岡春人(24) 東京都出身。入社3年目、今年4月に札幌赴任。警察・司法担当 川村さくら(24) 福岡県出身。入社2年目、札幌は初任地。警察・司法、高校野球担当

北方領土、泳いで渡ってきたロシア人

 平岡 8月に国後(くなしり)島からロシア人男性が泳いで渡ってきたのにはびっくりした。

 佐野 北方領土は遠い存在のように感じていた。対岸の標津(しべつ)町まで約20キロと知り、そんなに近いのだと思い知らされた。

 平岡 その男性は朝日新聞の取材に「日本へのビザなし交流に応募したが認められなかった」と話した。日本が領土と主張する島なのに、元島民を含め簡単に行き来できないのが現実だ。

 川村 3月には同性婚訴訟の判決があった。札幌地裁が、同性どうしの婚姻を認めない民法や戸籍法の規定は違憲だと、全国で初めて判断した。地裁から出てきた原告や弁護士らが、性的少数者の運動の象徴になっている虹色の旗のもとで喜び合う光景は一生忘れない。

 佐野 判決は前任地で心待ちにしていた。様々な価値観を認め合える社会に変わっていけばと期待を感じた。

 川村 大学時代に「自分には同性のパートナーがいる」とふつうに話す人がいた。私たちの世代にはそういうオープンな雰囲気がある。でも長く闘ってきた当事者の話を聞くと、世の中にはまだ根深い差別が残っているのだと痛感する。

性的少数者への認識、世代間で差

 平岡 性的少数者に対する認識は世代間で差があると感じる。以前、「ゲイは気持ち悪いしエイズを広めたから嫌い」と年長の知人が偏見に満ちた言葉を平然と話すのを聞いて、がくぜんとした。今年の朝日新聞の世論調査でも、同性婚を認めるべきだと答えた人は若年層ほど多かった。差別の解消に自分たちの世代ができることは大きいはずだ。

 川村 いずれの出来事にも感じるのは「境界」や「壁」の存在だ。人間と動物の暮らす境界、領土の境界、結婚の壁――。

 佐野 10月に町長選があった寿都町では「核のごみ」を巡って町が賛成派と反対派に分断された。北海道はアイヌ民族の土地を奪って開拓した歴史があり、アイヌ民族への差別の問題は今も根深い。

 川村 コロナは最たる例だ。人と簡単に会えなくなり、「壁」が生まれた。歓楽街やライブハウスなど、いまだに偏見に苦しむ場所もある。札幌の繁華街ススキノに行くことへの偏見から「36号線を渡るな」という言葉も聞かれた。

 平岡 ワクチン接種が進んで感染者が減り、人出は戻りつつあるが、多人数で集まることには今も抵抗感が残る。

ススキノで働く人々から元気もらう

 佐野 常にコロナを意識せざるを得ず、閉塞(へいそく)感を感じてしまう。そんななかススキノの取材などを通じて、苦境や偏見を乗り越えようと耐えて働く人々の姿には元気をもらった。

 川村 連載では「境界」や「壁」が私たちの生活にどんな影響を与え、問題解決のために何が必要かを探りたい。

 平岡 自分たちの問題意識を出発点に、新聞離れが進む若者層にも響くような記事を届けたい。

 佐野 新聞は情報を一方的に伝えがちだが、私たちが届ける記事が、読者にとって本当に必要なのかわからなくなることがある。記者と読者との間にギャップが生まれてはいないか。それを少しでも埋めるために、読者の考えに耳を傾けていきたい。

あなたにとっての「境界」をお聞かせください

 連載企画「ボーダー2.0」を始めるにあたり、読者の皆様に「境界」に関するアンケートを実施します。お聞きしたいのは次の2問です。

 ①2021年のニュースの中で「境界」の存在を感じたのは何ですか

 ②あなたがふだん感じる「境界」はどんなことですか。また、それはどんな時に感じますか

 抽選で10人に図書カード2千円分を差し上げます。インターネットの専用ページ(http://t.asahi.com/wlab)で受け付け、朝日IDの登録(無料)が必要です。締め切りは12月22日です。

 アンケート内容は記事で紹介することがあります。また、記者が取材のために連絡することがあります。

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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