上原美春さんがつむいだ平和の詩「みるく世の謳」全文

 沖縄県内の小中高生ら計1500作品から選ばれた、宮古島市立西辺中学校2年の上原美春さん(13)の「平和の詩」は次の通り。

 みるく世(ゆ)の謳(うた)

12歳。

初めて命の芽吹きを見た。

生まれたばかりの姪(めい)は

小さな胸を上下させ

手足を一生懸命に動かし

瞳に湖を閉じ込めて

「おなかすいたよ」

「オムツを替えて」と

力一杯、声の限りに訴える

大きな泣き声をそっと抱き寄せられる今日は、

平和だと思う。

赤ちゃんの泣き声を

愛(いと)おしく思える今日は

穏やかであると思う。

その可愛らしい重みを胸に抱き、

6月の蒼天(そうてん)を仰いだ時

一面の青を分断するセスナにのって

私の思いは

76年の時を超えていく

この空はきっと覚えている

母の子守唄空襲警報に消された出来事を

灯(とも)されたばかりの命が消されていく瞬間を

吹き抜けるこの風は覚えている

うちなーぐちを取り上げられた沖縄を

自らに混じった鉄の匂いを

踏みしめるこの土は覚えている

まだ幼さの残る手に、銃を握らされた少年がいた事を

おかえりを聞くことなく散った父の最後の叫びを

私は知っている

礎(いしじ)を撫(な)でる皺(しわ)の手が

何度も拭ってきた涙

あなたは知っている

あれは現実だったこと

煌(きら)びやかなサンゴ礁の底に

深く沈められつつある

悲しみが存在することを

凜(りん)と立つガジュマルが言う

忘れるな、本当にあったのだ

暗くしめった壕(ごう)の中が

憎しみで満たされた日が

本当にあったのだ

漆黒の空

屍(しかばね)を避けて逃げた日が

本当にあったのだ

血色の海

いくつもの生きるべき命の

大きな鼓動が

岩を打つ波にかき消され

万歳と投げ打たれた日が

本当にあったのだと

6月を彩る月桃が揺蕩(たゆた)う

忘れないで、犠牲になっていい命など

あって良かったはずがない事を

忘れないで、壊すのは、簡単だという事を

もろく、危うく、だからこそ守るべき

この暮らしを

忘れないで

誰もが平和を祈っていた事を

どうか忘れないで

生きることの喜び

あなたは生かされているのよと

いま摩文仁の丘に立ち

私は歌いたい

澄んだ酸素を肺いっぱいにとりこみ

今日生きている喜びを震える声帯に感じて

決意の声高らかに

みるく世ぬなうらば世や直れ

平和な世界は私たちがつくるのだ

共に立つあなたに

感じて欲しい

滾(たぎ)る血潮に流れる先人の想(おも)い

共に立つあなたと

歌いたい

蒼穹(そうきゅう)へ響く癒(いや)しの歌

そよぐ島風にのせて

歌いたい

平和な未来へ届く魂の歌

私たちは忘れないこと

あの日の出来事を伝え続けること

繰り返さないこと

命の限り生きること

決意の歌を

歌いたい

いま摩文仁の丘に立ち

あの真太陽まで届けと祈る

みるく世ぬなうらば世や直れ

平和な世がやってくる

この世はきっと良くなっていくと

繫(つな)がれ続けてきたバトン

素晴らしい未来へと

信じ手渡されたバトン

生きとし生けるすべての尊い命のバトン

今、私たちの中にある

暗黒の過去を溶かすことなく

あの過ちに再び身を投じることなく

繫ぎ続けたい

みるく世を創るのはここにいるわたし達だ

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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