上皇さまが退位後も励むハゼの分類研究 論文の再検討、熱意変わらず

 最新式の顕微鏡や数々の標本が並ぶ皇居内の生物学研究所。ここが上皇さまの研究拠点だ。

 上皇さまは、ハゼ科魚類の分類に関する研究を長年続けてきた。

 「時間にとらわれないで、これまでに発表した論文を見直すことも必要ではないか」

 研究を支える一人、上皇職御用掛の林公義(まさよし)さん(76)によると、上皇さまは退位後、そんな考えを話したという。年齢を考慮し、新たな研究テーマを選択するのではなく、現在は、発表した論文の再検討に力を注いでいる。

 毎週月曜と金曜は皇居内の生物学研究所でそれぞれ約3時間半、水曜はお住まいの仙洞御所の研究室で約2時間研究する。毎回、林さんかもう一人の専門官が同席し、国内外の論文を確認したりハゼの標本を顕微鏡で観察したりする。

 昨年から課題を①チチブとヌマチチブの分類・生態学的研究②日本産クモハゼ属の分類学的研究に絞った。チチブとヌマチチブは、鰾(うきぶくろ)の形状やひれの動きと遊泳行動との関係を明らかにし、標本の形質的観察に加え、他の研究者の協力を得てCTスキャンによる骨格構造解析も取りいれるなど手法を広げて研究する。両種の生息環境の違いを確認するため、2河川に生息する両種のすみ分けに関する野外調査の結果も検討する。かつて1980年に論文の共著者と発表した日本産クモハゼ属6種の分類形質が、その後10種に増えたことから当時の記載内容を再検討している。

 自身の目で確認しないと納得せず「今の話はどの文献に載っているのか」と尋ね、疑問が解消しないと次の段階には進まない。時には、モニター画面の前で立ったまま標本写真の映像を見て議論することもあるという。

 最近は顕微鏡につないだモニターで標本画像を拡大するなど工夫を凝らす。

 林さんとは50年以上親交がある。林さんが神奈川県横須賀市博物館(現在の同市自然・人文博物館)の学芸員をしていた70年、上皇さまの弟の常陸宮さまが同館を訪問。自己紹介で林さんがハゼ科のヨシノボリの生態調査をしていることを伝えたところ、「皇太子殿下(上皇さま)がハゼの研究者であるのを知っていますか」「お会いになったことはありますか」と尋ねられ、「今度、皇太子殿下にお伝えしておきます」と伝えられた。

 また、林さんが所属していた大学のクラブ活動の卒業生に、皇太子時代の上皇さまの魚類研究をサポートする職員がいたことから、赤坂御用地に足を運ぶように。同年に東宮御所(当時)で皇太子時代の上皇さまと初対面して以降、葉山御用邸(神奈川県)での静養中に散策に同行したり、海で一緒にハゼの採集をしたりするなど交流が続いた。研究材料も度々提供。沖縄・石垣島で採集したハゴロモハゼは、国内では初記録となることから、研究仲間とともに献上して和名をつけてもらった。2018年4月から侍従職御用掛、19年5月から上皇職御用掛として研究を支えている。林さんは「研究に対する熱意は少しも変わらない。これからも楽しみながら続けて頂きたい」と話す。

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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