二つ星店主は「フグ博士」 夢の中でも考える、謎のあれ

「フグ博士」と呼ばれる料理人 北濱喜一さん(91)

 今年もフグのシーズンがやってきた。河豚は食いたし命は惜しし――。こんなことわざが生まれたように、かつては怖々と食べられていたフグ。今、安心して店で食べられるようになったのは、この人のおかげかもしれない。大阪府岸和田市の北濱喜一さん(91)。「フグ博士」と呼ばれる料理人だ。

 ミシュラン二つ星のフグ料理店の店主は、独創的な「白子の含め煮」などで、食通らをとりこにする。その一方で、博覧強記のフグ研究者という顔も併せもつ。

 フグの大消費地、大阪出身。父が岸和田で創業した「喜太八」を継いだ。日本近海で捕れるフグは約50種類。有毒部位は種類によって異なり、同じフグでも生育場所で毒性の強弱は違う。その生態がよくわからなかった時代、全国で中毒死が後を絶たなかった。

 「世のために尽くせ」。父の教えを胸に、中毒死をなくしたいと独学で研究を始めた。分からないことがあれば、大学の研究室を飛び込みで訪ねた。その縁で、東大、京大、九州大の研究者と「日本ふぐ研究会」を立ち上げた。

 自宅に設けた研究室で、寝る間を惜しんで世界中のフグを解剖し、毒のありかや強さを調べた。その成果が、日本のフグ食のルール作りに生かされた。

 フグの調理資格の教科書なども執筆。わかりやすい言葉遣いを心がけた。一般に広く理解されることが、中毒の減少になるとの思いがあった。店の向かいに作った「ふぐ博物館」には多くの人が訪れ、「フグ博士」と慕われる。

 フグのことを夢でも考えている。最近も交雑種とみられる未知のフグを確認した。「知り尽くしたとは思わない。まだ謎はある。研究を続けたい」(才本淳子)


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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