原爆描写「あれで十分」 長崎の被爆医師が見た「オッペンハイマー」

寺島笑花

 「原爆の父」と呼ばれる物理学者の半生を描いた米国映画「オッペンハイマー」(クリストファー・ノーラン監督)が日本でも公開される。米アカデミー賞では作品賞など7部門を受賞し、話題を呼んだが、原爆の被害に直面した長崎の被爆者たちはこの映画をどう評価するのか。

 映画は、原爆の開発・製造を目的とする「マンハッタン計画」を主導した理論物理学者、ロバート・オッペンハイマー(1904~67)の視点で、原爆の開発から日本への投下が描かれる。ただ、被爆地や被爆者の描写はほとんどない。第2次世界大戦や冷戦、赤狩りなど、時代の波に翻弄(ほんろう)されたオッペンハイマーの人生が描かれている。

 日本での公開に先駆けて18日夜、長崎市で若者向けの試写会と被爆者らによるトークイベントが開かれた。

 トークイベントには、被爆者で医師の朝長万左男さん(80)と政治学者の前嶋和弘さんが登壇。時代背景を説明しつつ、映画の感想を語った。

 会場の学生からは「核実験成功後、人々が狂ったように喜びたたえ合う姿に強い違和感を覚えた」という意見も上がった。朝長さんは「私もそう思う」と応じた上で、被爆者の描写がなかったことについては「オッペンハイマーのセリフの中に、被爆の実相にショックを受けたことが込められていた。あれで十分だった」。前嶋さんは「いまの世界を支配している核兵器を、もう一度見つめなければならないというメッセージが込められている。米国の変化の映画だ」と語った。

 イベント後、取材に応じた大学生の塚根みづなさん(18)は「映画を見て、いままで出会った被爆者の方々の言葉や表情が想起されたが、前提知識がない人にとっては被爆者の思いは連想しにくい情報量だった」。高校2年の安野美乃里さん(17)は「原爆を落とす側の新しい視点で見た。人間の探究心は止めることができない中、どう未来の幸せにつなげるか、考えさせられる映画」と話した。

 日本では、この映画はどのように受け止められるのか。映画は29日から一般公開される。(寺島笑花)

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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