台風19号上陸から1年 この土地 諦めない(日本農業新聞)

 昨年10月12日に上陸した台風19号が各地に大きな爪痕を残してから、間もなく1年がたつ。河川が大規模に氾濫した地域では復旧作業が今も続く。地域の農業が元通りになるか、先行きが見えない中、産地の維持を決意する農家や品目の転換に活路を見いだす農家がいる。(川崎学、藤川千尋)

米作付けできず-宮城県丸森町 施設園芸に活路

 宮城県丸森町では一部農家で今年の作付けができず、主食用米の作付面積が1割以上減少した。水路の工事が完了しなかったためだ。ある農家は園芸への転換を進め、集落営農の道も模索。水害を機に地域の農業は岐路を迎えている。  1級河川の阿武隈川が流れるのどかな田園風景の丸森町が、濁流にのみ込まれた。町役場がある丸森地区は一帯が浸水するなど大きな被害が出た。同地区竹谷の海川正則さん(73)は、自宅や水田の近くを流れる阿武隈川支流の3河川が氾濫して自宅が全壊。今も仮設住宅で避難生活を送る。水稲15ヘクタールを経営しているが、今年は2割に当たる3ヘクタールしか作付けできなかった。  町によると、2020年の主食用米作付面積は752ヘクタールで、前年より101ヘクタール減った。そのほとんどが同地区に集中する。災害復旧工事が完了せず、作付けができなかったという。工事は21年度まで続く見込みだ。  海川さんは水田での営農が不可能になったことから、今年から本格的に園芸に取り組み始めた。8アールの農地を借りて、ハウスでナスやキュウリなどを栽培。水稲に代わる作物が必要になったからだけでなく、前に進む姿を地域に見せるためだ。  これまで水稲は町農業の主力だったが、園芸の導入で収益を高めることで地域の農業に道筋を付けたいと考えている。「将来は竹谷の農家300戸で集落営農組織をつくり、法人化へつなげたい。水田と園芸団地を組み合わせることで、もうかる農業を実現する。私がそのための受け皿をつくりたい」。水害を機に、海川さんは前を向く。

生活拠点再建遅れ-長野市 「通い農業」疲労

 千曲川の堤防決壊で果樹を中心に大きな被害を受けた長野市では、291ヘクタールが災害復旧事業による土砂撤去の対象になり、5月までに作業が完了した。営農は一定程度再開し、リンゴが収穫時期を迎えている。一方で農家の生活再建は道半ばだ。高齢化や避難先からの通いによる負担感、浸水地区に住宅を再建することへのためらいなど、営農を続けるかどうか農家の判断は揺れている。  農地や住居に甚大な被害が出た同市赤沼地区。1・3ヘクタールでリンゴを栽培する清水久正さん(73)は「非日常が続いて、肉体的にも精神的にも疲れた」と漏らす。  畑に近い自宅は、堤防決壊で床上約2メートルまで浸水。同じ場所に自宅の再建を進めるが、完成するのは早くて11月末。みなし仮設のアパートから園地まで車で通う状態が1年近く続いている。  実感するのは蓄積する疲労だ。移動時間とその前後の準備などで、1日当たりの農作業の時間は1時間半は短くなっている。食事はコンビニの弁当やパンが増え、昼寝は作業小屋でコンテナの上にマットレスを敷いて横になる。  清水さんは「高齢や兼業の農家の中には、やめたり縮小したりする人、地域を離れる人が出てくるかもしれない」と懸念する。それでも「専業農家の自分には農業しかない。日常を取り戻したい」と前を向く。  長野市農業公社が赤沼地区を含む市北部の被災農地所有者1479人に調査した結果、1割に当たる148人が貸し出しを希望した。営農の断念か縮小を検討しているとみられる。同地区で農業委員を務める小滝愛子さん(66)は「通いで農業をしている人は、通い続けるか、地域に戻り住居を再建するか、農業をやめるかのはざまで揺れている」と指摘する。  JAながの営農部の小林芳則次長は「農地やJAの施設はほぼ復興したが、個々の家や作業場などの復旧は道半ば。産地維持には生活再建が欠かせない」と強調する。

農水被害3446億円

 農水省のまとめによると、台風19号の農林水産被害額は3446億円に上り、38都府県に被害が出た。最近10年間に発生した台風や豪雨災害の中で被害額は最も多い。  農業関係の被害額は2505億円。うち農業用施設は1312億円、農地は788億円。

日本農業新聞

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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