図書館に忍び込み、少年は村を救った アフリカ最貧国

 アフリカ南東部マラウイで、学費を払えず中学にも通えなかった14歳の少年が風力発電装置を作り、呪術が頼みだった村を救う。そんな実話をもとにした映画「風をつかまえた少年」が公開されている。モデルになったウィリアム・カムクワンバさん(32)が7月に来日。貧困を抜け出し未来を切り開いたきっかけは、忍び込んだ図書館で出会った一冊の本だったと語った。

 映画の舞台はマラウイ中部の農村。科学に興味のある少年ウィリアムは希望を胸に中学校に進む。しかし、入学後まもない2001年、大干ばつに襲われた村で飢饉(ききん)が発生。農業を営む一家は年間80米ドルの学費が払えなくなり、ウィリアムは学校を退学になる。

 それでも学業をあきらめられないウィリアムは追い出された学校の図書室にこっそりと通い、一冊の英語の本『エネルギーの利用』に出会う。英語はほとんど読めなかったが、イラストを頼りに廃品置き場で拾ったトラクターのファンやパイプなどで手作りの風力発電装置を自作。電気の発電と送水ポンプの稼働を実現し、干上がった村の畑に水をもたらす。

 カムクワンバさんは自らを描いた映画について、「見た時に複雑な気分になった」と話す。「風車を作っていた時や動いた時のワクワクした感情を思い出すと同時に、飢えをもう一度体験するようなつらい気持ちがこみ上げてきた」

 風車を作ろうとした当時、マラウイの電気の普及率は人口のわずか2%で、村にも電気は通っていなかった。呪術の力がなお信じられており、大人たちは干ばつの時に雨乞いをした。そんな環境で、風力で電気を起こそうとするカムクワンバさんは周りから「変人」と見られた。

 たった一人でも風車作りをあきらめなかったのは、図書室で出会ったあの本のおかげだという。「本の中に描かれた風車の挿絵を見たとき、世界のどこかで他の人が作れたのなら、同じ人間の自分も作れるはずだと思えた」

 02年に1基目を完成させた後も図書室に通い続けた。06年に2基目を建設した時、マラウイの新聞に取り上げられことがきっかけで、その存在が広く知れ渡るようになった。翌年にはタンザニアでのスピーチイベントに登壇。奨学金などを得て学業を再開することになり、米ダートマス大学で環境学を学ぶこともできた。09年には自身の経験を書いた映画と同名の本が世界でベストセラーに。13年には米誌タイムの「世界を変える30人」に選ばれた。

 「学ぶことをあきらめず、人生の選択肢を失わずにいられたのは、一冊の本が与えてくれた勇気のおかげ」。カムクワンバさんは風車を作っていた少年の頃から切り開いてきた道を振り返ってこう語る。「お互いに生きている環境は違っても、映画で描かれた私の経験が、見た人にとって学ぶことや挑戦することの刺激になることを願っている」

 カムクワンバさんの次なる目標は、マラウイにイノベーションセンターを立ち上げることだ。若者たちが出入りして、機械やコンピューターで作業できるようにしたいという。「自分が直面している問題は誰よりも自分がよく分かっている。それぞれが解決するための手助けがしたい」

 アフリカは、情報通信技術の発達で跳躍を意味する英語の「リープフロッグ」と呼ばれる一足飛びの急速な発展を実現しつつある。横浜で8月28日から開かれるアフリカ開発会議(TICAD)でも、この発展を加速させる方法が中心議題になる。

 一方で発展の恩恵がみんなに行き渡るにはほど遠い実情もある。世界銀行の17年の統計によると、マラウイで電気が使えるのはいまだに人口の1割しかない。カムクワンバさんは「農業のほとんどがまだ手作業。若者たちが才能を開花させる機会をつくり、技術革新を実現したい」と話す。

 日本を含めた先進国はアフリカとどうかかわっていけるのか。「お金をやり取りするだけでなく、アイデアを共有できる関係が大切だと思う。相手の文化から学べる間柄になればもっと深い関係を築ける」(宋光祐)


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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