発達障害の当事者をめぐる就労の困難さが生じるのは、どんな原因があるのか。発達障害者の就労について詳しい、早稲田大学教育・総合科学学術院の梅永雄二教授(発達障害児臨床心理学)に聞いた。
うめなが・ゆうじ 1955年生まれ。早稲田大学教育・総合科学学術院教授。東京などの障害者職業センター勤務を経て、障害者職業総合センター研究員として「自閉症の就労支援」などを研究。宇都宮大学教育学部教授を経て2015年より現職。
――厚生労働省の2016年の調査では、医師から発達障害だと診断を受けた人は国内に48万人以上いると推計されました。医師の診断を受けていない人も含めると、国内に発達障害の当事者はどれくらいいると考えられるのでしょうか。
発達障害の当事者数を正確に捕捉できているデータはありませんが、実態は厚労省の推計をはるかに超えているとみられます。
全国の小中学校を対象にした、文部科学省の12年の調査が参考になります。通常学級に在籍する1164校の約5万2千人を調査したところ、6・5%の子どもに発達障害がある可能性が指摘されました。単純計算ですが、この割合をそのまま日本の人口に換算すると、国内の800万人以上に発達障害があるという計算になります。
米国のCDC(疾病対策センター)は、20年に出した最新の調査で、米国内の子どもの54人に1人に発達障害の一つである自閉スペクトラム症(ASD)があると推計しています。1970年代初頭は米国内のASDは1万人に5人程度だと言われていましたから、かなり数が増えています。
日米で違いはありますが、日本でも当事者の数が増えていることは間違いありません。
当事者の増加、理由はっきりせず
――増えている理由は何ですか。
一つの理由として、昔は「性格の偏り」だと見られていたこだわりの強さなどの状態が、実はASDに由来する症状だということがわかってきた。そのように発達障害の研究が進んだことで診断を受ける人が増えたとは言えるでしょう。
ただ、それ以外にも環境的な要因やその他の要因を指摘する研究者もいます。増加している理由ははっきりとはわかっていません。
――発達障害がある人が就労を目指す場合、どんな困難が考えられるでしょうか。
発達障害にはASD以外にも、読み書きや計算が苦手な学習障害(限局性学習症、SLD)、注意欠如・多動症(ADHD)などが含まれます。
ただし、仕事について考えると、読み書きや計算を必要としない体を動かす仕事などを選べば、それほど問題なく働くことができる。
就労においてもっとも課題が多いのは、ASDのケースだと思います。
――なぜですか。
理由は三つあります。
まず一つ、一番わかりやすいのが人間関係です。ASDの障害特性としてコミュニケーション能力が低い傾向があるために、上司や同僚との人間関係がうまくいかず孤立してしまいやすい。
二つ目が、時間管理や優先順…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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