少年法改正、刑法学者ら反対表明「整合性に欠く法律案」

 今国会中の成立を目指して審議中の少年法の改正案について、「被害者と司法を考える会」代表の片山徒有(ただあり)さん(64)や刑法学者、弁護士らが6日、都内で記者会見し、反対の意見を訴えた。改正案は18・19歳を「特定少年」として成人の扱いに近づけるという内容。片山さんは「少年が実名報道にさらされ、立ち直りのための資格取得の扉も閉ざされる改正は許されない」などと訴えた。

 会見に同席した本庄武・一橋大教授(48)=刑事法=も150人の刑事法研究者の反対声明を紹介。「法案の内容は適用年齢の引き下げを前提とした内容に近い。整合性に欠く法律案だ」と批判した。

 改正案に対しては、このほかにも日本女性法律家協会、日本児童青年精神医学会、市民団体「子どもと法・21」、各地の弁護士会も反対意見を公表している。

少年院で矯正教育を受けられた少年が、受けられなくなる恐れ

 今回の改正案では、18・19歳については家庭裁判所から検察官に原則送致(逆送)される対象が、現行の故意の行為で人を死なせた罪のほか、強盗や強制性交、放火罪などにも拡大される。逆送後に起訴されれば、実名報道も可能になる。また、逆送にならない場合は「犯情の軽重を考慮して相当な範囲で」保護処分を決めるとされ、少年の特性や家庭環境など要保護性に応じて処遇を決めてきた現行と変わることになる。

 たとえば、窃盗を繰り返す少年が、これまでなら被害金額が少なくても要保護性が認められれば少年院で矯正教育を受けられたが、改正後は被害金額が少なければ少年院送致はできず、不処分となって事実上社会に放置される場合もある。さらに、現行は少年の改善が認められなければ少年院の入院期間を延ばすこともできるが、改正案では行為責任に応じて入院期間が決められるため、改善されていなくても期間が終われば退院となる。

 反対声明の呼びかけ人の一人、一橋大の葛野尋之教授(59)=刑事法=は、これまで少年院や保護処分が果たしてきた更生機能が薄まることにつながるとして、「再犯増加を覚悟しないといけない。18・19歳で立ち直っていた人がそうならず、累積的に成人犯罪が増える。言い換えれば将来の被害者を増やすことになる」と指摘。少年法が少年の健全育成と再犯防止に有効に機能してきたことは共通の認識とした上で、「少年法の適用年齢を引き下げたかった自民党と18・19歳を少年法の適用内に収めたかった公明党の、政治的な妥協の産物」と批判する。

 元裁判官の松原里美弁護士(67)も「やった行為の悪さに応じて処遇を決めるのは成人の刑事司法の基本原則。それを少年法の中に持ってきており、法律の全体構造がゆがめられている」と話す。

 2000年以降に繰り返されてきた少年法の改正は被害者の声が反映されて行われてきた側面が強い。かつて少年院に2回入り、いまは非行少年の立ち直りを支援するNPO法人「再非行防止サポートセンター愛知」の理事長を務める高坂朝人さん(37)は「国は非行少年の教育機会を奪うのではなく、被害者支援の充実に力を入れていくべきだ。被害者も加害者も増やさない政策が必要なのに、今回の改正案は逆行している」としている。(編集委員・大久保真紀


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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