店名はレストランコロナ 困ってる?「いえ、まったく」

 北海道岩見沢市に「レストランコロナ」という、1954(昭和29)年創業の老舗の洋食店がある。地域に愛されてきた名店だが、このご時世、コロナという店名で大変なのではと気になった。ところが「名前で困ったことはひとつもない。むしろ……」と、店主は温かく微笑むのだ。

拡大するエビフライにハンバーグ、ピラフ、グラタンなどが一度に味わえる「レストランコロナ」の人気メニュー=北海道岩見沢市

 10月末の水曜日午後1時過ぎ。10以上あるテーブル席はほぼ満席だった。ビジネスマンやグループ客が食事とおしゃべりを楽しんでいる。名物のハンバーグステーキ、コクのあるビーフシチュー、エビフライやグラタン、ピラフなどを盛り合わせたランチなどが人気だ。料理長谷本貴秀さんら長年勤める料理人たちが厨房を守る。

 料理にも携わる社長の菊谷(きくや)昌泰(まさひろ)さんは3代目だ。もともとは和菓子屋だったが、祖父の敬太郎さんがカフェにして、その後の1954年に「レストランコロナ」の名前で洋食店を始めた。2018年には全日空の機内誌に取り上げられるなど、地元では知られた老舗レストランだ。

 新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた今年の春先ごろは、「コロナウイルス、いくらで売ってるんですか」などと、いたずら電話がちらほらかかってきたことはある。だが「そんなことにかかわっている余裕はなかった」と、昌泰さんは振り返る。

 岩見沢市民会館内にある支店「コロナのテラス」は、新型コロナの影響で会館が閉鎖になった4月中旬~6月中旬の約2カ月間、営業ができなかった。本店も時間短縮を余儀なくされ、客足が遠のいた。2店舗合わせた売り上げは例年より4割ほど落ち込んだ。

 何とかコロナに負けまいと、テイクアウトのメニューを増やした。岩見沢市の職員や市内の会社などが、まとまった数で弁当の注文を入れてくれた。昌泰さんは「あれがなければスタッフの心も折れていた。ありがたいことです」と言う。

拡大するこちらも人気メニュー、ビーフシチューのセット=北海道岩見沢市

 昌泰さんの母紀恵さんは、嫁いできた20代半ばのころ、今は亡き敬太郎さんに店の名前の由来を尋ねたことがある。「太陽の輪という意味。人の輪を考え、和めるようにと付けたんだよ」と話していたのを覚えている。

 コロナ禍のいま、改めて義父の言葉を思い出す。「コロナという店名で困ったことはひとつもない。かえってみなさん応援してくれたり、心配して声をかけてくださったりする」と紀恵さんは言う。

 昌泰さんも、店名での不都合は全く感じていない。「ファミリーレストランに押されて、まちの洋食屋は随分減ってしまった。けれど、自分が引き継いだこの店を、さらに誰かに紡いでいってもらいたいという気持ちです」。これからも「コロナ」は岩見沢の人たちに愛され続ける。(芳垣文子)

拡大する(左から)料理長の谷本貴秀さん、菊谷昌泰社長の母紀恵さん、妻さおりさん=北海道岩見沢市


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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