戻ってきた血染めの靴 遺族の涙に見合う記事を書けたか、記者の自問

 取材中に涙が出そうになったのは初めてだった。

 6月8日、神戸市北区で高校2年の堤将太さん(当時16)が殺害された事件の第2回公判。父・敏さん(65)が被告の男(30)に直接質問した時のことだ。

 「なぜ将太はあなたに殺されなければならなかったんですか」

 「将太がどれだけ痛かったか、つらかったか、苦しかったかわかりますか」

 被告を見据える敏さんの大きな声が、張り詰めた法廷に響いた。

 息子を失ったのは2010年。敏さんのこれまでの血のにじむような日々と、裁判にかける並々ならぬ思いを取材してきた身として、その気迫に胸を打たれた。

 容疑者逮捕までの11年間、敏さんは情報提供を求めるビラを6万枚配り、刑法や刑事訴訟法を勉強するため大学に通った。凶悪事件の裁判の傍聴も重ねた。

 裁判前は、夜な夜な被告への質問を考えた。

 「人を殺すことは取り返しのつかないこと」「私たちは将太の死に意味を与える義務がある。無駄にはしない」

 裁判への思いがびっしり刻まれたA5ノートは、強い筆圧でどのページもぼこぼこだった。

 被告には懲役18年の判決が下された。だが遺族にとって、事件は今も終わっていない。

「見られへんよね」

 判決後の7月、検察で保管されていた将太さんの遺品が返ってきた。

 事件当時、身につけていた衣…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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