政府専用機で前代未聞のぼや騒ぎ 機内には記者も搭乗(産経新聞)

 東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席する安倍晋三首相の外遊に同行し、3日から5日かけてタイ・バンコクを訪れた。中国の李克強首相らとの会談など、外交日程は4日に集中していたが、前半の“ハイライト”は前代未聞の政府専用機のぼや騒ぎだった。機内の様子を再現しつつ、政府専用機について紹介しよう。

 ■スチームオーブンから煙

 それは3日午後に羽田空港を飛び立ってから約1時間後だった。最後方に近い座席に座っていた、どちらかといえば鈍感な記者も、さすがに異変を察知した。

 機内食の配膳準備に入ったキャビンクルーの動きが何やら慌ただしい。やや刺激のあるにおいも漂ってきた。すると、前方の通路のカーテンが開き、小型消火器を持った女性クルーが駆けてきた。だが、男性クルーがその女性を「消火器は必要ないよ」というジェスチャーで制した。その瞬間「何かトラブルがあったな。でも、もう大丈夫なのだろうな」と悟った。

 ほどなくして機内アナウンスが入った。

 「後方の調理場のスチームオーブン内でぼやが起き、初期消火をしています。煙を吸って体調の悪い方はお近くの乗組員にお知らせください」

 時間は午後2時56分。機内はやや騒然とした。

 そして3時8分に再びアナウンスが流れた。「ぼやにつきましては無事に鎮火いたしました。どうぞご安心ください。ご心配、ご迷惑をおかけしましたことをおわび申し上げます」

 バンコクまでの運航にも問題ないようだ。これにて一件落着-。と、ならないのが記者稼業である。

 政府専用機は今年4月、1993年(平成5年)か約25年間にわたって活躍したボーイング747から、ボーイング777-300ERに交代した。それを機に、ごく限られたデータ容量の公衆無線LAN「Wi-Fi(ワイファイ)」が利用できるようになった。

 それゆえ記者は、無事配膳された機内食を横目に見ながら、書き留めた機内アナウンスをもとに「政府専用機内でぼや」の記事をスマートフォンで打ち、メールで送稿した。

 8時間後の3日午後11時10分、防衛省は次のような「お知らせ」を出した。

 「…オーブンを用いて耐熱袋に入っていたパンを温めていたところ、焦げ臭いにおいが生じ、煙が出ていたため、消火器を用いました。『ぼや』とのアナウンスをしましたが、火は確認していませんでした」

 5日には河野太郎防衛相が記者会見で「防衛省として申し訳なく思っている。天皇陛下もお乗せする飛行機なので、きちんとやりたい」と陳謝した。

 ■空自が運航、機内で記者と懇談も

 なぜ、防衛省がこのような説明や対応をするのか。それは政府専用機の運航を担当しているのが、航空自衛隊だからだ。

 政府専用機は普段、北海道千歳市の千歳基地に駐機しており、乗組員は千歳基地に所属する特別航空輸送隊の隊員だ。ただ、機内食やオーブンを含めた機材の整備・補修はANAホールディングスに委託している(旧専用機は日本航空に委託していた)。

 新専用機は燃費の向上で後続距離が旧型機より約1400キロ伸びた約1万4千キロとなり、輸送能力は、約110人(乗組員を含めると約150人)。首相の海外出張の際には、首相秘書官や警護員(SP)、出張先の地域を担当する外務省職員のほか、同行記者も搭乗する。

 国会議員を含め、永田町関係者の中にも「同行記者はただで政府専用機に乗っている」と思い込んでいる人が多いが、同行記者も当然、費用は負担する。

 防衛省によると、使用料は通常の民間航空会社の国際線の正規料金(エコノミー席)と同程度。したがって、旅行サイトで格安航空券を購入し、民間機を利用した方が安上がりなのだが、取材上は専用機に搭乗するメリットが多い。

 例えば、首相は専用機で訪問先に到着した直後から外交日程をこなすケースが多いが、専用機に搭乗していれば、あまり時間差なく取材に同行できる。ときには首相が飛行中、記者席に予告無しに姿を現し、そのまま懇談するパターンもある。

 ちなみに政府専用機が運航するときは、不具合などに備え、予備機も同時に飛ぶ。首相がバンコクからの復路で搭乗したのは、ぼやを考慮し、予備機だった。

 ぼや騒ぎで済んだからよかったが、新専用機は今回の一件も教訓に、退役までノートラブルで飛び続けてもらいたい。(政治部 原川貴郎)

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

Japonologie:
Leave a Comment