新潟で愛されるサンドパン 田植えに最適?素朴な魅力

 その土地でしか味わえない「ご当地グルメ」が全国にある。新潟のご当地パンとして広く親しまれてきたのが、コッペパンにバタークリームを挟んだ「サンドパン」だ。

 白根大凧(おおたこ)合戦で知られる新潟市南区の中ノ口川沿い。小川製パン店のガラス戸を開けると、昔ながらのショーケースにサンドパンが並んでいた。

 約20センチのコッペパンはこんがりと焼き目がついている。クリームは毎日練り上げて、ふわっと仕上げる。店主の小川英俊さん(63)は「クリームがジャリッとするから、英語で砂という意味の『サンド』が語源なんて説もあるらしいけど、うちのは滑らかだよ」

 父とその兄弟が昭和30(1955)年ごろ創業したといい、サンドパンは当時から一番人気だ。

 かつては道路沿いに店が並び、リヤカーで野菜を売りに来るおばあちゃんたちが、休憩がてらサンドパンを求めて列をなした。だが、時代とともに店も行商人も減り、バイパスができて客足が遠のいた。それでもパンを作り続けてきた。

 いまも田植えの時期には10個、20個とまとめ買いする人がいる。近くの高校で売っていたこともあって「懐かしの味」を求める客も多い。妻の生子さん(63)は「シンプルでいつでも食べたくなる味が人気の理由かしらね」。

 午後3時すぎ、常連客の女性がガラス戸を開けるなり「サンドパンあるだけちょうだい」。ショーケースの7個をすべて買うと「ここんちの、昔からおいしいのよ」とバッグに詰めた。この日もサンドパンは閉店前に売り切れた。

 一日平均1500本のサンドパンを焼くのは、上越市南高田町の小竹製菓。午前中に訪ねると、積み上げられたコッペパンに、3人がかりでクリームを塗っていた。店長の小竹加洋子(かよこ)さん(54)は「ひと口目から幸せになれるよう、端まで厚くしっかり塗っています」。クリームは約30グラムとたっぷり。多い日は2500本、この日は朝から2千本を焼いた。

 大正13(1924)年創業。戦後、製パン部門を設けたころからサンドパンをつくっている。

 パンはふわふわと柔らかいだけでなく、もっちりしっとりとした食感で、袋を開ければ小麦の香りが膨らむ。クリームも絶えず改良して進化させてきた。客から「夏はクリームが口に残る気がする」と言われ、どの季節も口溶けが同じになるよう原材料に工夫をこらした。

 山積みのサンドパンはどんどん売れていく。「小学生が3人で分け合ってうれしそうに食べているのを見ると、値上げできないわね」。重い病気で亡くなる直前「最後にサンドパンを食べたい」と家族に頼んだ人がいると聞いた。「故人の大好物だったから、棺に入れたい」という客や、結婚式の手土産にする人もいた。「そういうことを聞くたび、本当に愛されていると感じるし、ちゃんと作らないといけないって思う」

 サンドパンは県内各地に広がる。店によって個性はあるが、コッペパンを横に切ってバタークリームを挟み、レトロな雰囲気の袋に入れるスタイルはほぼ同じ。小竹さんは、そのネーミングも含めて「県のパン組合が取り組んだことで県内に広がったのでは」と推測する。ただ、詳しいことは謎のままだ。岩波精

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サンドパン

「小川製パン店」(新潟市南区能登1-4-7 日曜定休、月曜不定休 午前9時半~午後6時) 税込み140円

「小竹製菓」(上越市南高田町3-1 日曜定休、月曜不定休 午前9時~午後6時半) 税込み140円

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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