死刑しかない、でも長く生きて 被告に語った遺族の真意

 富山市の交番襲撃事件の裁判員裁判で、検察側は8日、強盗殺人の罪などに問われた島津慧大(けいた)被告(24)に死刑を求刑した。この日は、亡くなった警察官稲泉健一さん(当時46)と警備員中村信一さん(同68)の遺族も法廷に立ち、事件後の過酷な歩みや被告への激しい怒りを吐露した。

 意見を述べたのは、稲泉さんの妻と長男、中村さんの弟と妻の計4人。稲泉さんの妻と長男の周りには、傍聴席から姿が見えないようついたてが置かれた。

 稲泉さんの妻は、寡黙ながら優しく頼りになった人柄をしのび、「主人のことが大好きだった」と振り返った。稲泉さんの遺体と対面したのは勤務先の病院で、隣の部屋では被告の救命措置が行われていたという。以来、病院に行けなくなり、退職を余儀なくされた。パトカーのサイレンを聞くと、いまも当日を思い出すといい、「どんなに時間が経っても忘れられない」。そして「6月26日、すべてを奪われた」と続け、最後に「犯人を死刑にしてください」と2回繰り返した。長男は、マスコミの心ない取材に苦しんだことにも言及。「こんな理不尽な思いをすることになったのも被告のせい」と語り、「一生恨み続ける。死刑以外は絶対にあってはならない」と訴えた。

 「島津慧大さん」。最後に意見を述べた中村さんの妻は時折、被告をまっすぐ見て、名前を呼びながら言葉をつないだ。被告と面会した際、「悪いとは思えない。警察官と見誤ったことが悔やまれる」と言われたことを明かした。「責任を感じているように思えなかった。でもその後、『こんな自分で申し訳ない』と言いました。不思議な言葉でした」と振り返った。

 そして、「(障害の)治療を受け、苦しみや命の尊さを理解できるようになってもらわないと」。事件の理不尽さ、夫の無念を思うと「科すべき刑は死刑しかない」。そう語りつつ、こう締めくくった。「あなたにはできるだけ長く生きてもらいたい。遺族以上に悩み、苦しみ、後悔して、生涯を終えてもらいたい」

 被告は中村さんの妻が話す間、その姿をじっと見つめていた。

 弁護側の弁論の一部は9日に持ち越しになった。(竹田和博)


Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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