漁港そばで深夜に「おーい」、スマホで照らした海にロープつかむ男性

 5月25日午前1時40分ごろ、木下涼さん(27)は勤め先の「新鮮市場きむら」水産加工センター(高松市瀬戸内町)を出て、車に向かった。すると、どこからか「おーい、おーい」と叫ぶ声が聞こえてきた。センターは高松漁港のそばにあり、深夜でも漁船が行き交う。「漁師さんの声かな」と思った。

 しかし、漁船が通り過ぎても声は聞こえてくる。「切羽詰まっている。おかしいな」。そう思って堤防まで歩くと、対岸から「助けてくれ」という大きな声が聞こえてきた。

 木下さんは、車で入り江を挟んだ反対側の堤防にまわり、スマホの小さなライトで海を照らした。懸命に光を動かし続けると、真っ暗な海の中に浮かぶ男性を見つけた。堤防から垂れ下がった、船を係留するためのロープを必死につかんでいた。

 木下さんは、趣味の釣りのために、車にライフジャケットを積んでいた。それを男性に向かって投げた後、110番通報した。

 ほどなくして、木下さんからの電話を受けた同僚の濱元まきさん(56)と湊護さん(31)が駆けつけた。付近は住宅街で道が入り組んでいるせいか、サイレン音が聞こえても、パトカーはなかなか近づいてこないように感じた。「おじいちゃんがロープから手をはなしちゃうんじゃないかと怖かった」(木下さん)。

 到着した警察官と3人は協力、堤防に備え付けられたはしごを使い、衣服が水を吸って重くなった男性を約30分かけて引き上げた。

 高松北署によると、男性は現場近くに住む80代。深夜に堤防の近くを歩いていて、誤って海に転落したという。命に別条はなかった。男性は警察に「木下さんがいなかったら、私は死んでいた」と話した。

 高松北署などは6月12日、3人に感謝状と記念品を贈った。

 木下さんは「本当は午前3時ごろに市場に行くつもりだったんです。でも、僕せっかちだから早く出ちゃって」と振り返った。いつもより早く職場を出て、声のトーンに違和感を抱いて現場を見に行った行動が、男性の発見につながったという。河合潤一郎署長は、「これからも周囲に色々な気を配っていただきたい」と3人をねぎらった。(内海日和)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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