誰も知らない本当の名前、33番札のミミ 「父」がつかんだ手かがり

 京都市中心部の河原町通。路地を入ったところにある町家の軒先に、お座りをした小麦色の雑種犬の写真が飾られている。

 「サンの店 SAN Cafe」

 佐藤研二さん(70)が11年前、自宅の一角に開いた喫茶店だ。

 サンは開店の直前、ここへやってきて、店の人気者になった。

 正式な店名は別にあったのに、常連客たちはいつのまにか「サンの店」と呼ぶようになった。

 鴨川沿いや京都御苑を通り、サンと散歩するのが佐藤さんの日課だった。サンに愛想はないのに、なぜか人や犬が寄ってくる。マイペースな性格で、他の犬にほえられても動じない。

 「出会う前も、かわいがられていたんだろうな」と、佐藤さんは思う。

 サンがこの世を去ってから、まもなく3年。

 元の飼い主はだれだったのか。

 探し出して、伝えたい。「サンは京都で楽しく生きたよ」

夢中で逃げたら、ひとりぼっち

 佐藤さんは昨年2月、サンが主人公の絵本をつくり、自費出版した。

 物語は次のように始まる。

 東北に、春の雪がふったある日、とつぜん、じめんがゴォーという音をたててゆれた。ぼくは、むちゅうでにげて、にげて、気がついたら知らない場所でひとりぼっち。ぼくは「まいご」になっていた――。

 2011年3月11日の東日本大震災

 被災地で飼い主とはぐれたペ…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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