豪雨犠牲の若旦那の遺志継ぐ 温泉にコスプレイヤー集う

 昨年7月の豪雨災害で被災した大分県由布市の湯平温泉で4日、湯平温泉コスプレフェスタ(湯平温泉観光協会主催)が開かれた。避難中に犠牲になった、オリジナルキャラ「電脳女将」で知られる宿「旅館つるや隠宅」の若旦那、渡辺健太さん(当時28)が提案した企画。「健ちゃんがいたら、参加者と話も弾んだだろうね」。そんな思いも抱えながら、スタッフたちは参加者をもてなした。

 湯平温泉では昨年11月に県内のコスプレ団体の全面協力でプレイベントを開催。今回は協会自ら参加者を募った。

 当日は不安定な空模様でキャンセルも出たが、コスプレイヤーとカメラマン約30人が集い、赤ちょうちんが彩る石畳の坂など思い思いの場所で写真を撮っていた。湯平温泉観光協会の麻生幸次会長(52)は「被災の日に一番近い日曜日を選んだ」と語った。

 サブカルチャー好きの健太さんは旅館のオリジナルキャラクター「電脳女将・千鶴」を考案。SNSでの情報発信に力を注ぎ、ぼっち旅(一人旅)でも気軽に泊まれるプランも取り入れて「つるや隠宅」を知る人ぞ知る人気の宿にした。

 健太さんは「若い人への知名度をあげられる。レイヤーのSNSでの拡散力はあなどれない」として、観光協会と旅館組合の合同理事会でコスプレ企画を提案した。

 「今までにない客層を引っ張る姿に、すごいな、こいつやるなと思っていた」という麻生さんは「慣れないとなかなか心を開かない彼が、初めて自分で企画を打ち出した。理事会で心を開き向き合ってくれたのもうれしかった」。

 昨年7月1日の理事会で開催が正式承認されたが、その1週間後、健太さんは同月7~8日にかけ襲った豪雨で夜間に避難中、両親と祖母とともに車ごと川に流され犠牲になった。

 麻生さんは「君はやりたいことをとりあえず言いなさい。苦手な市や県との交渉ごとは私たちの役目――。そんな関係を作っていきたかった」と惜しむ。

 コスプレ企画について「一番やりたかった彼がいないのにやって意味があるのか」と、ふと思う時もあったと麻生さん。「来てくれる人を精いっぱいもてなすため、イベント中は心を鬼にして忘れるようにした。主催者が心を引っ張られていると参加者にも伝わるから」と思いを打ち明けた。「彼には『お前、早すぎるよ』とだけ言いたい」

 観光協会は来年以降も7月の第1日曜日にコスプレフェスタを続ける方針だ。

 麻生さんは「参加者には純粋にイベントとして楽しんでもらえたら。開催を重ねるたび、7月初めに行ういわれや健太くんのことも、おのずと心によみがえると信じている」と話した。(寿柳聡)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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