過失と紙一重の介護 准看護師への有罪判決が問うもの 

経世彩民 浜田陽太郎の目

 「家族の面会は、2月17日から中止しています」。私が4年前、社会福祉士の資格をとるための実習でお世話になった都内の特別養護老人ホーム施設長は、緊迫した声だった。

 新型コロナウイルスの影響だ。感染すると高齢者は特に重症化しやすい。「職員の感染も怖い。何人も出勤停止になったら、シフトが回らなくなる」。心配はつきない。

 学校に行けない子どもとその親も大変だが、お年寄りの行き場がなくなるのも同じくらい、いやそれ以上に大変なことかもしれない。援助や保護がなければ死の危険があるのだから。高齢者とその家族への配慮、ケアを提供する人たちにリスペクト(敬意)を絶やさないようにしたい。

 でも私が今回書きたいのは、ことによれば新型コロナよりも深く介護現場を傷つけかねない、ある残念な裁判のことだ。

地裁松本支部「罰金20万円」

 長野県安曇野市の特別養護老人ホーム「あずみの里」で2013年、入居者がドーナツを食べた後に死亡した。昨年3月、長野地裁松本支部は、介護をしていた准看護師に有罪判決を下した。おやつが固形からゼリー状のものに変更された記録を確認しなかったことが過失に認定された。

 のみ込む力が衰えたお年寄りを介護する現場で、誤嚥(ごえん)など食事をめぐるトラブルは珍しくない。裁判例はいくつもあるが、刑事責任が問われたのは、少なくとも公になっている限り、これが初めてと専門家はいう。罰金20万円の量刑とはいえ有罪が確定すれば「前科1犯」が、一生ついてまわる。

 私も実習中、食事の介助をしていた相手がむせたことがあった。低栄養にならないよう食べて欲しいが、食事の時間は限られている。もしかしたら、私の焦りが「むせ」につながったのかも……。そう考えると、私だって刑事被告人になりえたかもしれない。背筋がうすら寒くなる。

 「あずみの里」が、特定の政党…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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