鍛錬に励んだ教え子、なぜ放火の犠牲に 祈り込めた「突き」300回

 「家の中からよく笑い声が聞こえてくる明るい家族でした」

 大阪市北区のクリニックで25人が犠牲になった放火殺人事件から17日で1カ月となる。奈良県の40代の男性は、30代の妻とともに亡くなった。小学生ぐらいの年頃の子が残された。近所の人は、親子3人が自宅前でバドミントンに興じる姿を覚えている。

 男性は大阪府内のメーカーに勤め、職場での信頼も厚かった。上司は「人格者で仕事もできて、社にとって重要な人物だった。スタッフはみな悲しんでいる」と悔やんだ。元同僚の一人は「優しく、頼み事にも嫌な顔をせずに応じてくれる人でした」と声を詰まらせた。

 「無念だなあ、無念やったよなあ……」

 放火殺人事件から、1週間余りが経った昨年のクリスマス。現場のビルの前に白いタオルを巻いた花束を供え、亡き教え子にそっと手を合わせる人影があった。

 奈良市内の高校で少林寺拳法部の監督を長年務める野村裕(ゆたか)さん(72)。亡くなった男性は20年以上前の部員だった。

 「寡黙だが芯の強さがあり、周りから慕われていた」と振り返る。高校から競技を始める部員が多い中、男性は小さな頃から道場に通い、入部時点で有段者だった。

 大会では、攻防を2人1組で披露する「組演武」の種目で優れた成績を残した。「正確に技を繰り出せる高い技術力があり、相手に合わせる協調性にも秀でていた」と野村さん。

 少林寺拳法は、危険から身を守ることを基本としているという。野村さんは「奥さんをかばおうとして犠牲になったのでは」と思いやった。

 事件からまもなく1カ月。野村さんはまだ、気持ちの整理がつかない。犠牲になった教え子は、男性だけではなかった。

大切にしている黄色いメガホン

 奈良市内の高校の少林寺拳法…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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