食べること 百姓・猟師をしていて恥ずかしくなってきた

記者コラム「多事奏論」 近藤康太郎 日田支局長

 「わたし、もの食べてるところ、人に見られるの嫌いなの。セックスをのぞき見されるより、もっと」

 1970年代のお馬鹿な不良はこぞって見ていたテレビドラマ「傷だらけの天使」から。探偵事務所の綾部社長によるセリフだ。岸田今日子が妖艶(ようえん)に演じていた。

 わたしも、リアルタイムで見ていた。以来、40年以上もこのセリフを覚えているのだから、よほど印象は強烈だったのだろう。食べるとは、栄養をとること。栄養をとれば、あたりまえだが、不要物を排泄(はいせつ)しなければならない。そんなことを他人に連想されるのは耐えられない、恥である。ポーラ・ネグリ「マヅルカ」を愛する社長の、特異な美意識か。当時はそう理解していた。

 綾部社長以上の年齢になったいま、わたしの理解は、少し違うふうになっている。排泄だけではない。食べることが、そもそも恥ずかしい行為なのだ。

 食べることは、〈殺すこと〉だからだ。

 百姓であるわたしのクライマッ…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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