100回を迎える健康道場を記者が体験 兵庫・姫路(産経新聞)

 米ハリウッド映画「ラストサムライ」のロケ地として知られる古刹(こさつ)「書写山円教寺」(兵庫県姫路市書写)で毎月行われている1泊2日の「健康道場」が、10月で100回目を迎える。山々に囲まれた静かな環境の中、普段入ることのできない本堂での座禅や写経、僧侶の質素な食事などが体験でき、女性や外国人観光客から人気を集める。一体どのような修行が行われているのか。実際に参加した。(木下未希)

■心のあかを流す

 午前8時半、書写山ロープウエーの山麓駅前に集合し、険しい山道を登り続けること約40分。会場の書写山円教寺に到着した。

 集まった修行者は20~70代の男女14人。初めて参加する加古川市の会社員、原田翠さん(23)は「友人が寺の娘で、話を聞くうちに自分も寺の生活や文化を体験してみたいと思った。僧侶から直接話を聞く機会はめったにないので、いろいろなことを吸収できれば」と緊張した面持ち。

 午前10時、作務衣(さむえ)に着替えた修行者を前に、同寺の中安剛円法務部長(58)が「思考が変われば、状況や境遇、運命は大きく変わる。日常のストレスや怒りを頭から追い出し、修行で心身を整えることで、心のあかを洗い流しましょう」と訓示。1泊2日の修行が幕を開けた。

■座禅で雑念払う

 宿泊場所の同寺妙光院から再び山道を登ること約10分。ラストサムライのロケ地でもある常行堂に到着した。薄暗い本堂で僧侶から足や手の組み方、姿勢などの手ほどきを受けた後、約30分間の座禅が始まった。

 開始から10分。僧侶が警策で修行者をたたく音が何度も響き渡る。「絶対にたたかれまい」。意識を集中するも、後方から聞こえる観光客の笑い声に心をかき乱されてしまう。「楽しそうだな。自分は何をしているんだろう」。思わず笑ってしまった瞬間、目の前に人の気配を感じた。ビシッと肩をたたかれ心地よい激痛が走る。

 座禅とは姿勢を正して座った状態で精神統一する「禅」の修行の一つ。「足がしびれて嫌悪感を抱いても体の状態を意識的にいい方向に持っていく。これを繰り返すことで、日常生活で嫌なことがあっても考えをいい方向に持っていくことができる」と中安法務部長は座禅の効果を語る。

 2日間で座禅体験は計5回。なかでも夜と早朝の座禅が醍醐味(だいごみ)だ。今回で7回目の修行という加古川市の会社員、東浩司さん(55)は「夜は月明かりが差し、早朝は鳥のさえずりが聞こえる。日常から離れた静かな環境で五感が研ぎ澄まされる」とほほ笑む。

 確かに最初は足のしびれや雑念から何度も警策でたたかれたが、後半になるにつれ風の感触や線香の香りなどを感じ、気持ちよく座っていられる余裕が生まれたことに気づいた。

■“今”を生きる

 健康道場は、ストレス社会で生きる現代人に仏教の作法を通じて心豊かに過ごす環境を提供しようと、同寺が平成19年夏から定期的に開催している。

 当初は年2回ほどだったが、口コミなどで話題を呼び、近年は月1回のペースで開催。会社の新人研修や小中学校の林間学校でも利用されるほか、「ラストサムライ」の影響で海外からの参加も多いという。

 2日間の修行では、座禅のほかに写経や読経、僧侶の講和、早朝は縁側掃除などを行う。食事も修行の一つで、話をせず、一切残さず、咀嚼(そしゃく)音をたてずに“食”に集中する。

 全ての修行に共通するのは、過去の煩いや未来への不安を排除し、今この瞬間を集中して生きること。中安法務部長は「幸せとは、はるか先にあるものではない。今この瞬間を『幸せだな』と感じる、その歩みこそが大切」と語る。

 僧侶の言葉を胸に、2日間の修行を終えて山を下る修行者たちの顔は晴れやかだった。神戸市須磨区の自営業の女性(57)は「人を幸せにするには、まずは自分を大切にすることが必要なんだって改めて感じた」と笑顔で話した。

 何も考えずに自分を休める時間を持つことで再び現実の“今”を懸命に生きることができる-。たまには都会の喧騒(けんそう)を離れ、大自然の中で座禅に取り組んでみてはいかがだろうか。

 【書写山円教寺の「健康道場」】書写山円教寺で月1回行う1泊2日の修行体験。次回は10月5~6日。料金は1万2千円。持ち物は運動靴、防寒着、帽子、タオル、洗面用具、着替えなど。定員15人。申し込み、問い合わせは同寺(079・266・3327)。

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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