165V・買い物難民を救え 走る移動スーパー(産経新聞)

 「足腰が弱って買い物に行けなくなった」「運転をやめたので出かけるのが難しい」。増える「買い物難民」と呼ばれる人たちに商品を届ける移動販売のサービスが広がっている。ノウハウを蓄積して全国のスーパーと提携する運営会社が登場しているほか、販売体制を強化する大手コンビニエンスストアもある。買い物に悩む人は高齢化が加速する地方だけでなく、車を持たない人の多い都会でも増えており、問題解決策として期待が寄せられている。(西川博明)

 ■何でも揃う

 「あら品数が多いわね」

 「仏さんの花、ある?」

 2月中旬、生駒山地に近い坂道の多い大阪府八尾市の住宅街に停車した1台の軽トラック。扉が開くと野菜や肉、魚など食材のほか、トイレットペーパーのような日用品まで400品目1200点の品物がぎっしりと詰め込まれていた。

 「何か欲しい商品あれば、言ってくださいね。次持ってきますから」

 トラックの運転と販売を行う池田一美さん(60)がきさくに声をかけると、到着の音楽を聴きつけやってきた主婦たちはゆっくり買い物を楽しんだ。

 自らの母親が買い物に行くのに困っているのを見てこの仕事を始めたという池田さんは「ありがとう、と感謝されるのが何よりうれしい」と目を細める。

 この軽トラックは、近鉄グループのスーパーを展開する近商ストア(大阪府松原市)が、徳島市に本社を置く移動スーパー運営会社「とくし丸」と提携し、恩(おん)地(ぢ)店(八尾市)の移動店舗と位置づけ走らせている。

 近商ストアはとくし丸と平成30年4月から業務提携を行い、移動スーパー事業を開始。現在、奈良と大阪の2府県で6台を稼働させているが、将来的には20台へ増やしたい考えだ。粕本源秀(かすもともとひで)社長は「買い物は生活の楽しみ。しかし日常の買い物に苦労される方々もおられる。少しでも買い物の楽しみを感じていただけたら」と強調する。

 ■都会にも需要

 農林水産省によると、交通手段がなかったり、近くに商店が無くなったりして日常の買い物に困っている買い物難民は27年の時点で約825万人にのぼると推計されている。

 こういった問題を解決しようと、24年に移動スーパー事業を始めたのがとくし丸だ。全国の地元スーパーと提携し、関西でも近商ストアのほか29年から提携した関西スーパー(兵庫県伊丹市)など複数社がとくし丸の軽トラックを走らせる。

 そのビジネスモデルでは契約した「販売パートナー」と呼ばれる個人事業主が、提携するスーパーから仕入れた商品を乗せた軽トラックを顧客のもとに走らせる。利益をあげて事業を継続させるために販売価格は店頭価格より10円高く設定している。

 24年から移動スーパーを走らせてきたとくし丸の住友達也社長は「店頭価格より10円高いなんて、はじめのころはどこのスーパーも相手にしてくれなかった」と振り返る。しかし「高齢化する日本の社会にとって絶対に必要な事業」と粘り強く事業を進め、現在では沖縄を除く46都道府県で約500台が稼働するほどに拡大した。

 一方、ショッピングモールなどの台頭で生き残り策を模索する地域のスーパーは、移動販売を通じて地元密着をアピールし、顧客獲得のきっかけにしようと考えている。ただ、自社でトラックやノウハウを開発するためにはある程度の時間や投資が必要になるため、とくし丸のようなノウハウを持った運営会社との連携が進む。

 住友社長は「買い物に出かけにくくなる悩みは地方だけでなく都心部でも共通」と指摘する。都市部では自家用車を持たない世帯も多く、買い物に困る人は意外に多い。「カバーできていない地域はまだある。困っている方々のもとに駆け付けたい」と、現代版御用聞きを目指す。

 ■地元とのつながり

 一方、大手コンビニエンスストアのセブン-イレブン・ジャパンも23年に始めた移動販売「セブンあんしんお届け便」の稼働が昨年秋、100台を突破した。おにぎりや弁当などを積んで小売店が少ない地域に届ける。同社広報は「移動販売を通じて、ご高齢の方が多い地域の見守り活動にも協力できれば」と話す。

 また、滋賀県に本社を置く平和堂も対面で品物を届けることにこだわり、22年から買い物代行のサービスを県内で展開している。年会費1000円(税込み)で、配達料1回100円(税別)。注文は電話かファクスで受け付け、スタッフが商品を届けたさいに庭の草刈りなどを頼まれれば家事代行も行う。現在会員数は5550人にのぼる。

 創業1号店の地元客から高齢を理由に「買い物に行くのが大変になった」と打ち明けられたことをきっかけに始めた事業。担当者は「地元のお客さまとのつながりをこれからも大事にしたい」と話している。

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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