ALS患者への嘱託殺人事件 元医師が初公判で起訴内容を否認

 京都市で2019年、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者(当時51)に依頼され、薬物を投与して殺害したとして、嘱託殺人罪などに問われた元医師の山本直樹被告(45)=医師免許取り消し=の初公判が29日、京都地裁で始まった。山本被告は「女性の自宅にいたことは間違いないが、共謀もしていないし、実行もしていません」と起訴内容を否認した。弁護側は無罪を主張した上で、「何らかの罪が成立するとしても幇助(ほうじょ)にとどまる」と述べた。

 山本被告の起訴内容は、知人の医師の大久保愉一(よしかず)被告(45)=嘱託殺人罪などで起訴=と共謀し、19年11月、女性が暮らす京都市中京区マンションを訪問。女性から殺害を依頼され、チューブで胃に栄養を直接送る「胃ろう」から薬物を注入し、急性薬物中毒で死なせたというもの。

 ALSは、筋力が衰えて体が徐々に動かなくなっていく難病。女性は「安楽死」を望んでいたとされるが、両被告は主治医ではなかった。

 検察側は冒頭陳述で、大久保被告がSNSを通じて女性と知り合い、「安楽死ができる」と伝えたと説明。その後、両被告で相談し、女性宅を訪れて犯行に及ぶことを決めたと主張した。事件当日、大久保被告が女性に薬物を投与する際、山本被告は見張り役を担ったとも述べた。

 一方、弁護側は冒頭陳述で、山本被告が事前に、大久保被告から計画の内容を聞かされていなかったと反論。女性と大久保被告とのやり取りにも一切関わっていないと訴え、「山本被告は無罪だ」と主張した。

 山本被告は19年、九州に住む難病患者の20代女性について、英文の診断書2通を偽造したとする有印公文書偽造罪にも問われており、この日の初公判で「署名はしたが、それが犯罪になるのか分かりません」と述べ、起訴内容を否認した。

 京都の女性に対する嘱託殺人事件の捜査過程では、山本被告の父(当時77)の殺害事件が浮上。山本被告は殺人罪に問われ、今年2月、京都地裁で懲役13年の判決を受けて控訴している。

 大久保被告も二つの事件などで起訴されたが、公判日程は決まっていない。(光墨祥吾)

嘱託殺人事件をめぐる経緯

2019年

11月30日 京都市中京区のマンションで筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者の容体が急変し、搬送先の病院で死亡

2020年

7月23日 ALSの女性患者から依頼を受けて殺害したとして、京都府警が大久保愉一被告、山本直樹被告を嘱託殺人容疑で逮捕

2021年

5月12日 山本被告の父を殺害した容疑で、大久保被告、山本被告、山本被告の母・淳子被告の3人を逮捕

12月24日 厚生労働省が山本被告の医師免許を取り消したと発表 

2023年

1月12日 父殺害事件の初公判で、山本被告が起訴内容を否認

2月7日 父殺害事件で、京都地裁が山本被告に懲役13年の判決。その後、被告は控訴

5月29日 嘱託殺人事件で、山本被告の初公判

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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