それは誰のための議論なのか 「トランスジェンダー問題」を考える
有料記事聞き手 田中聡子2023年4月18日 5時00分 「トランスジェンダー」と聞いて、どんな人を想像するだろう。社会の中で圧倒的に少数であるトランスジェンダーは、今、性別で分けられたスペースの議論の中で、大きな「問題」として扱われている。英書「トランスジェンダー問題」の翻訳者・高井ゆと里さんは語る。まずトランスの人たちの「現実」を知ってほしい、と。性別から逃れられない社会 ――「トランスジェンダー」とはどんな人たちを指すのですか。 「世界的に0・5~0・7%と言われ、圧倒的に数の少ないマイノリティーですが、確実に存在する人たちです。よく使われるのが、『身体の性別と心の性別が異なる』という説明です。分かりやすいですし、トランスの人は自分の身体と付き合うのが大変な面もあるので、言い当てていないわけではありません。しかし私は、『この性別で死ぬまで生きなさいという課題を背負いきれなくなった人たち』と説明しています」 ――「課題」ですか。 「私たちはみな生まれた時から、『男の子として生きなさい』『女の子として生きなさい』という課題を背負っています。社会が負わせるその課題に対し、『その性別では生きていけない』『つじつまが合わない』と感じているのがトランスジェンダーです。私たちは電車の中や道で知らない人を目にした時、まず『男か女か』を判断します。誰もが『男』『女』として存在させられているとも言えるでしょう。性別を元にした仕組みや制度も至る所に存在します。今の社会で、性別から逃れることはできません」 「そして、『この性別で生きなさい』と一度決められたら、死ぬまでそれを背負うことが当然とされています。それ以外の人は想定されていない。だから、課せられた性別とは別の性別で生きていこうとすると、視線の暴力、言葉の暴力、物理的暴力という社会的な『罰』を受けることになります」 「トランスジェンダーが抱える問題を個人の身体と心に押し込めるのではなく、社会が性別に関してどう振る舞い、どんな制度を作ってきたのか、そのことでトランスの人がどう困っているのかに目を向ける必要があります」 ――どのような困りごとを抱えているのでしょうか。 「虐待、いじめ、家を借りら…この記事は有料記事です。残り2908文字有料会員になると続きをお読みいただけます。 Source : 社会 - 朝日新聞デジタル