音楽教室でのレッスン時、講師や生徒の演奏に著作権料は発生するのか――。音楽教室と日本音楽著作権協会(JASRAC)が争う訴訟の控訴審判決が18日午後1時半、知財高裁で言い渡される。「著作権料の支払い義務がある」とJASRAC側の主張を認めた一審の判断を維持するのか、「支払い義務はない」とする音楽教室側の訴えを認めるのか。この問題を長く取材してきた記者が控訴審判決のポイントを整理する。 突如浮上した「徴収方針」 JASRACが音楽教室から著作権料を徴収する方針を固めた、と報じられたのは、2017年2月2日のことだった。その当日に開かれたJASRAC理事長らの定例記者会見では、新たな徴収方針をめぐる質問が相次いだ。 音楽教室側の動きは速かった。ヤマハや河合楽器製作所など教室を運営する事業者は、この日のうちに会合を開いて結束を確認、徴収に反対する「音楽教育を守る会」を結成した。 それ以降、教室側は反対の姿勢を強めていく。生徒らの協力を得て、徴収に反対する署名約56万人分を集めて文化庁に提出。史上初となる、文化庁長官による「裁定」も求めた。 文化庁は翌年3月、JASRACによる徴収開始を認める裁定を出す一方で、徴収に反対する事業者への督促を控えるようJASRACを行政指導した。「中立」の立場を守ろうと腐心した結果だった。 教室側は、17年6月にJASRACを相手取る訴訟を東京地裁に起こした。音楽教室でのレッスン時の演奏について、JASRACに著作権料を徴収する権利がないことを確認するよう求めるもので、約250の事業者・団体が原告に名を連ねた。 明かされた「潜入調査」 訴訟では、JASRACの「秘策」も明らかになった。 東京・銀座にあるヤマハの上級者向けバイオリン教室に約2年間、「生徒」として通って潜入調査した職員が証人として出廷。「講師の演奏はとても美しく、コンサートを聞いているようだった」と述べ、「公衆に聞かせるための演奏といえる」というJASRAC側の主張に沿う証言をしたのだ。「教室は空きがあれば誰でも入れる」とも述べた。教室側の代理人は反対尋問で、入会する際に職員が職業を「主婦」としていたことを指摘したが、職員は「JASRAC職員と名乗れば、断られるかもしれないと思った」と説明した。 東京地裁は20年2月、「教室の生徒が支払うレッスン料には音楽著作物の利用の対価が含まれている」とし、指導時の演奏についても支払い義務があるとする判決を言い渡した。教室側の訴えを退ける、JASRAC側の全面勝訴だった。 控訴審の判断、ポイントは 教室側は判決を不服として控訴。控訴審の知財高裁でも両者の主張は真っ向から対立した。 教室側は「レッスンは数人で行われ、講師と生徒の顔ぶれも基本的に固定される」として、「不特定多数の公衆は教室に存在しない」と訴えた。 演奏の目的についても、講師は「演奏技術の手本を示すため」、生徒は「技術を学び練習するため」だと主張。音楽教室は営利事業である一方で、学校教育を補完する役割を果たしてきた点も考慮されるべきだと訴えた。…
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