市民公開講座「研究が切り拓(ひら)くがん治療最前線」(日本癌学会、日本対がん協会主催、朝日新聞社など後援)が3日、広島市内のホテルで開かれた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、講演はウェブ配信され、600人以上が視聴。5人の専門家が登壇し、ゲノム医療などがんの最新治療について講演した。 増える治療の選択肢 吉田和弘・岐阜大学大学院教授 拡大する講演する吉田和弘・岐阜大学大学院教授=2020年10月3日、広島市中区、上田潤撮影 日本人のがん発症者は増えています。国民の3分の1ががんで亡くなり、2分の1が生涯のうちで何らかのがんにかかります。がんにかかる人の数で見ると、胃がん、大腸がん、肺がんが多く、死亡数が多いのは肺がん、大腸がん、胃がんというのが現状です。 がんの治療には大きく分けて、手術、抗がん剤治療、放射線治療があります。ほとんどが抗がん剤治療や放射線治療だと思っていませんか? 実は大腸がんの95・7%、胃がんの83・6%、乳がんの85・5%が何らかの外科的治療をしています。 胃がんの場合、早期で胃の粘膜の中だけにあるがんは、内視鏡で切り取ります。がんが少し深くまで潜っている場合は、腹腔(ふくくう)鏡で胃切除をしています。5ミリから1センチの穴を腹部に4~5カ所開ける手術で、傷が小さく出血もほとんど10ミリリットル以内、回復が早くなります。進行がんになると、胃切除や開腹手術をすることが基本です。 手術ロボット「ダビンチ」は、アームの先端が人間の手以上に回転するため、転移の可能性がある周りの組織も取り除きやすく、出血量も非常に少なくてすみます。 転移があり手術ができない場合は、薬物療法が主になります。今は、抗がん剤治療でがんを小さくして切除できる大きさになったら手術をする「コンバージョン手術」という方法もあります。元々は大腸がんで多く実施されていました。全ての人ができるわけではありませんが、胃がん、食道がん、膵臓(すいぞう)がんなどでも可能になってきました。 胃がんでは早期がんと進行がんだと生存率に12倍の差があり、早期の発見が大切です。新型コロナウイルスの感染拡大で患者さんの受診控えや検診の延期があり、治療をしなくてはならない人が受けられない状況にあります。ぜひ定期的な検診を受けてください。 進化する肺がんの薬物治療 矢野聖二・金沢大学教授 拡大する講演する矢野聖二・金沢大学がん進展制御研究所教授=2020年10月3日、広島市中区、上田潤撮影 肺がんは日本のがん死亡原因で最も多く、毎年7万人以上の人が亡くなり、がんで亡くなる人の5人に1人が肺がんという状況が20~30年続いています。 一番の原因はたばこです。肺がん男性の70%、女性の20%はたばこが原因です。禁煙すると5~9年でリスクが下がり始め、何歳で禁煙してもリスクは下がるのでぜひやめてください。間接喫煙、受動喫煙の影響も大きく、たばこを吸っている人と一緒に住んでいると、肺がんで死亡する危険性が20~30%も増えてしまいます。 肺がん治療で特に進化を遂げているのは薬物治療です。2010年ごろまでは抗がん剤が主でしたが、最近では分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤の開発が主流になっています。 免疫細胞に作用してがんへの攻撃を促す免疫チェックポイント阻害剤は、いったん効くと数年間効果が続く患者がいて注目されています。いつまで治療を続けるのかについては定まった見解がありません。私が担当している70代の男性患者では、1種類目、2種類目の抗がん剤を使ったが全く効きませんでした。3番目の治療として免疫チェックポイント阻害剤を使い、ほとんど腫瘍(しゅよう)がない状態で4年目にさしかかりましたが、元気に治療を続けています。…
4 ans Il y a