宇宙から電気を送る「究極」の太陽光発電 送電実験進む
宇宙空間で太陽光発電して地球に送る「宇宙太陽光発電」の実現に向けて、送電技術の実験が進んでいる。昼夜があったり、天候に左右されたりする地上での発電と比べて効率が高いと期待される。「究極」の太陽光発電だ。 30メートル上空のドローンが点灯 兵庫県内にある屋外試験場で5月末、送電実験が行われた。六つのプロペラが回転し、小型ドローンが飛び上がった。地上には卓球台ほどの装置が設置されている。イージス艦に搭載されるレーダー「フェーズド・アレイ」を改造したアンテナで、ドローンの位置を検知し、電気をマイクロ波のビームに変換して送る装置だ。 ドローンが約30メートルの高さまで上昇すると、「送電を開始します」とアナウンスが流れた。ドローンの底部の受電部「レクテナ」に向けてビームが放たれると、受電を示す赤色のLEDが光った。見守っていた技術者らから拍手が起こった。 宇宙空間に太陽光パネルを並べて発電した電気を地上に送る宇宙太陽光発電では、送電技術の確立が必須だ。今回の実験はその基礎的な実験だ。 実験を計画・実施した一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構の鹿志村修本部長は「ビームを制御すれば、70メートルほど先まで送電できる」と話す。 宇宙太陽光発電は1968年に米国のピーター・グレーザー博士が提案した。曇ったり、太陽が沈んだりして発電できる時間が限られる地上と比べて、宇宙空間では約10倍の太陽エネルギーを利用できるという。 宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの構想によると、地上から約3万6千キロ離れた宇宙空間に約5・9平方キロの発電・送電用パネルを並べる。最終的に地上での供給電力は原発1基分に相当する約100万キロワットに達するという。 経済産業省などのロードマップによると2035年ごろに宇宙で実証実験を開始し、45~50年ごろの実現を目指している。 巨大パネル建設、送電制御……壁高く 実現へのハードルは高い。 まず、宇宙空間で巨大構造物を建設する必要がある。JAXAが検討する方式の総重量は約2・7万トン。国際宇宙ステーションの約64倍にあたる。これほど巨大なものを打ち上げて建設した実績はどの国にもない。 また、送電するマイクロ波のビームの制御も難しい。出力が高すぎると、ビームを飛行機や鳥などが横切った場合に影響が出かねない。供給電力を確保するには、ビームの出力を下げて広い範囲に送り、巨大なアンテナで受信する必要がある。 JAXAの構想だと設置する受信アンテナは直径4キロ。ビームがアンテナからずれればロスに直結する。巨大アンテナなら受信は簡単なように思えるが、約3万6千キロ離れた宇宙からの送電だと簡単ではない。ゴルフで4キロ先のカップに直接入れるような難しさがあるという。 JAXAで宇宙太陽光発電を研究する小林秀之研究領域主幹は「巨大な構築物を軌道上でつくり、うまく制御しながら、地上にビームを送るというのは大きな技術課題」と話す。…