「しちゃえば?」で結婚 鉄道タレント鈴川絢子さんを結ぶ秘境駅

 訪れた人が書き込む「思い出ノート」には、2012年3月4日の日付で、こう記されている。

 「Suzu 18切符で小旅行。ロケじゃないよ。タモリくらぶに出て結婚する」。

 鉄道好きで知られる吉本興業所属のタレント、鈴川絢子さん(31)はその日、静岡、愛知、長野3県の境にあるJR飯田線の小和田(こわだ)駅(静岡県浜松市)にいた。同行していたのは同社の女性社員と、動画スタッフで同じく鉄道好きの七野浩史さん(38)。新幹線とJRの「青春18きっぷ」を使い、東京から訪れた。

鈴川絢子さん

千葉県出身。吉本興業所属。2013年からユーチューバーとしても活動し、チャンネル登録者数は99万人にのぼる。鉄道関連を中心とする動画を投稿し、子連れでの鉄道旅や、プラレールなどのおもちゃ紹介が人気を集めている。

何げなく書いた「結婚する」

 駅を出て3分。近くの天竜川のほとりを散策しながら写真を撮影し、再び駅に戻った。鈴川さんが思い出ノートに書き込んだのはそのときだ。タモリ倶楽部への出演は「タレントとしての夢」だったが、仕事中心の当時は意中の人はいなかった。小和田駅が縁結びの駅として知られていたから、なにげなく書いた。

 小和田駅は1936年に開業した。かつて集落があったが、56年に近くで佐久間ダムが完成し、そのほとんどが沈んだ。

 JR東海によると、現在の1日あたりの乗客数はわずか4人。車が通れる道はなく、最寄りの集落まで徒歩で約1時間かかる。駅の周りには、製茶工場の廃屋や、オート三輪「ミゼット」の廃車体が残され、寂しさを際立たせる。秘境駅探訪で知られる牛山隆信さんが毎年まとめている「秘境駅ランキング」の2022年度版では、堂々の全国3位だ。

 そんな秘境駅が一躍有名になったのが93年、当時の皇太子さま(現天皇陛下)と小和田(おわだ)雅子さん(現皇后陛下)のご成婚だった。読みが異なるものの、「小和田」の駅名を目当てに全国から人が押し寄せた。駅で結婚式を挙げるイベントもあり、新郎新婦の送迎に臨時列車「小和田花嫁号」が走った。「小和田発ラブストーリー」と書かれたヘッドマークが、今も古びた駅舎に飾られている。

 思い出ノートを書き終えた鈴川さんは、同行の2人と帰りの飯田線に乗っていた。ふと、女性社員が冗談まじりに言った。

 「あなたたち、鉄道好きでお似合いだし、結婚しちゃえばいいじゃん」

各駅停車の車内で

 七野さんは笑って聞いていたが、鈴川さんはまったく違う受け取り方をしていた。「確かにそれ、いいかも」。趣味が同じで、話が合い、ネット配信の仕事も共通している。考えれば考えるほど、ぴったりの相手に思えてきた。

 終点のJR豊橋駅(愛知県豊橋市)に着くころには、いつのタイミングで結婚するか話し合っていた。七野さんも、鈴川さんの一見頼りなさそうに見えて芯がしっかりしたところに、心をひかれ始めていた。

 「各駅停車の飯田線のなかで…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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